『VIVANT』の制作費「1話1億円」は公式額ではなく報道値で、U-NEXTの負担額も公表されていません。
確認できるのは、TBSが「製作著作」として作品を制作し、地上波広告、無料配信、有料配信、海外展開、二次利用へ広げた事実です。ただし、それぞれの契約額や利益配分までは明かされていません。
夜更けに第1話の砂漠を走る車列を見たとき、僕の胸に残ったのは映像の迫力だけではありませんでした。
これほど大きな物語を、誰が、どのようなお金の流れで走らせたのか。今回は公式発表、実名関係者の推測、匿名証言、筆者の分析を分けて検証します。
まず、情報の確度を整理すると次のとおりです。
情報の区分 確認できる内容
公式発表 第1シーズンのクレジットは「製作著作 TBS」。制作費、U-NEXTの負担額、利益配分は非公表
実名関係者の推測 元日本テレビプロデューサーの土屋敏男さんが「1話1億円」という噂やU-NEXT関与の可能性を分析
匿名証言 Smart FLASHがTBS局員とされる人物による第2シーズン「1話1億円」説を報道
筆者の分析 広告、配信、海外展開、二次利用を組み合わせた長期回収型の作品だった可能性が高い
確定している事実と、もっともらしい推測は別物です。
数字が大きいほど話は魅力的になりますが、検証記事で大切なのは、どこまでが地面で、どこからが霧なのかを示すことだと僕は考えています。
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VIVANTの制作費「1話1億円説」はどこから出た?
結論から言えば、TBSは第1シーズンの1話当たりの制作費も、全10話の総制作費も発表していません。
そのため、「1話1億円」「総制作費10億円」という数字は、公式確定額ではなく報道や業界内の推測として扱う必要があります。
「1話1億円」という説を広めた代表的な記事が、元日本テレビプロデューサーの土屋敏男さんによる2023年10月30日のSCREEN ONLINEの記事です。
土屋さんは、放送後に「1話1億円」「標準的なドラマ制作費の3倍以上」という噂が聞こえてきたと記しています。制作関係者が公表した決算数字ではなく、あくまで放送後に伝わった情報を基にした分析です。
一般的なドラマとの比較では、2023年12月にnippon.comが、日本のゴールデン・プライム帯で放送される1時間ドラマの制作費を1話約3000万~4000万円と説明しています。
仮に『VIVANT』が1話1億円だったなら、一般的な目安の約2.5~3.3倍です。ただし、通常ドラマの制作費にも作品ごとの差があるため、「すべてのドラマの正確に3倍」とまでは言えません。
さらに、2025年6月11日のSmart FLASHは、TBS局員とされる匿名人物が、第2シーズンについて「1話1億円で制作すると聞いている」と話したと報じました。
ここで注意したいのは、第1シーズンの噂と、第2シーズンについての匿名証言は別の情報だという点です。後者もTBSの正式な予算発表ではありません。
現時点での答えは、次のようになります。
- 第1シーズンの「1話1億円」は報道や業界内の噂
- 第1シーズンの正確な総制作費は非公表
- 第2シーズンにも「1話1億円」という匿名証言がある
- TBSはシーズンごとの予算や支出内訳を公表していない
- U-NEXTなど外部企業の負担額も確認できない
仮に第1シーズンの全10話がそれぞれ1億円なら、単純計算では10億円です。
しかし、第1話は108分の拡大版であり、海外ロケが多い回と国内中心の回では工程も異なります。全話が同額だったと仮定した数字にすぎず、「総額10億円」と断定する根拠にはなりません。
1億円説は十分にあり得る報道値ですが、会計資料で確認された数字ではない。
この一線を守らなければ、検証のつもりで噂に新しい服を着せることになってしまいます。

なぜVIVANTの制作費は高額になったと考えられる?
『VIVANT』の予算が通常の国内ドラマより高かった可能性を支える最大の材料は、モンゴルで行われた2か月半の大規模ロケです。
TBSは放送前の公式映像で、モンゴルロケが約2か月半に及び、日本とモンゴルの出演者・スタッフが約1000キロを縦断して撮影したと発表しています。1日の気温差が30度近くに達する環境だったことも明かされました。
一方、NEWSポストセブンによる現地スタッフへの取材では、ゴビ砂漠での撮影は約3週間、ロケ隊全体の移動は1万キロ以上に及んだと報じられています。
TBSが示した「約1000キロ」は撮影地域の縦断規模、報道の「1万キロ以上」は準備や往復を含むロケ隊の累積移動とみられます。数字の定義が異なる可能性があるため、混同しないほうが安全です。
海外ロケでは、カメラを現地へ運べば撮影できるわけではありません。
- 出演者やスタッフの航空運賃と宿泊費
- カメラ、照明、美術道具の輸送費
- 現地車両、運転手、通訳、撮影スタッフの人件費
- ロケ地の使用許可や行政との調整
- 現地俳優やエキストラの出演費
- 食事、電源、通信、トイレなどの撮影環境
- 医療、安全管理、警備、保険への対応
- 悪天候や車両故障に備えた予備日
都市のスタジオであれば、電源や控室、機材倉庫はすでに用意されています。
砂漠では、人を運ぶ車、機材を積む車、食料や燃料を運ぶ車まで必要です。画面の中に一本の道を映すため、画面の外では何十本もの工程が並走します。
キャストの規模も大きな要素です。
第1シーズンには堺雅人さん、阿部寛さん、二階堂ふみさん、松坂桃李さん、役所広司さん、二宮和也さんらが出演し、日本とモンゴルをはじめとする多国籍の出演者が物語を支えました。TBSの公式ページには多数の海外俳優を含むキャストが掲載されています。
主要俳優の出演料だけでなく、長期のスケジュール確保、海外での移動、衣装、メイク、控室、安全管理まで費用は連動します。
一人の撮影が延期されれば、他の俳優や現地スタッフ、車両、ホテルの予定まで動く。海外ロケの一日は、国内スタジオの一日よりも多くの歯車でできています。
撮影後にも、編集、音楽、効果音、カラーグレーディング、CG、多言語の確認などが必要です。
『VIVANT』では砂漠の逃亡、爆破、大使館からの脱出、車両を使った追跡などが連続しました。高額化の理由を俳優のギャラだけに求めるのではなく、長期海外ロケと大人数の制作工程全体で考えるべきでしょう。
通常の日曜劇場との違いも、ここにあります。
『半沢直樹』や『ラストマン-全盲の捜査官-』も公式クレジットは「製作著作 TBS」です。つまり、『VIVANT』だけが特殊なクレジット方式を採用したわけではありません。
異例なのはクレジットの文字ではなく、その文字の向こう側にある移動距離、撮影期間、国境を越えた人員規模です。
同じ「製作著作 TBS」という看板でも、走らせた車の台数も、渡った国境の数も違う。その工程差こそ、高額な制作費を必要とした最大の根拠だと僕は感じます。

VIVANTの資金はTBS・スポンサー・U-NEXTの誰が出した?
公式クレジットで確認できる制作の中心は、TBSです。
第1シーズンの公式キャスト・スタッフページには「製作著作 TBS」と記載され、プロデューサー、原作・演出、脚本、音楽なども掲載されています。公開クレジット上に「VIVANT製作委員会」という団体名はありません。
ただし、「製作著作 TBS」と書かれていることは、TBSが作品の製作と権利管理の中心であることを示しても、全費用をTBSが自己資金だけで支払った証明にはなりません。
配信契約料、番組広告、協賛、美術協力、海外販売など、外部企業との個別契約は通常、作品のエンドクレジットだけでは分からないからです。
番組スポンサーは制作費の出資者なのか?
2023年の放送提供表示を記録した非公式の番組スポンサー・アーカイブでは、『VIVANT』の日曜劇場通常枠の固定スポンサーとして、花王、SUBARU、日本生命、サントリーの4社が掲載されています。
第1話や最終話の拡大部分には、別の企業による追加のCM出稿も記録されています。
ただし、この記録から分かるのは「放送中にどの企業の広告が流れたか」です。
広告主が購入するのは基本的にCM枠であり、その企業が『VIVANT』の制作費を直接何億円出資したかを示す資料ではありません。
- 番組提供スポンサー:CM出稿を通じて放送局の広告収入を支える
- 製作著作のTBS:作品制作、放送、権利展開の中心
- U-NEXT:有料配信を担当するプラットフォーム
- TVer・TBS FREE:広告付きの期間限定無料配信を担当
- 海外配信・販売先:国外で作品を届ける権利を取得
- 商品・イベント事業者:関連商品やイベントを展開
これらは同じ作品に関わっていても、役割が違います。
「スポンサー」という一語でまとめると、CMを出した企業、作品へ出資した企業、配信権を買った企業の区別が消えてしまいます。
製作委員会方式ではなかったのか?
アニメや深夜ドラマでは、複数企業による製作委員会名が公式クレジットに表示される例があります。
『VIVANT』第1シーズンは、公開されているスタッフ欄では「製作著作 TBS」の単独表記です。そのため、少なくとも視聴者が確認できるクレジット上は、製作委員会方式を前面に出した作品ではありません。
しかし、これだけで外部からの資金や契約収入が一切なかったとは言えません。
クレジットは作品の責任主体を示す重要な情報ですが、銀行口座の入出金明細ではない。ここが資金構造を検証するうえで、最も誤解されやすいポイントです。
U-NEXTはVIVANTの制作費を負担した巨大スポンサーなのか?
結論は、U-NEXTが制作費を単独負担したという公式発表はありません。
U-NEXTと『VIVANT』の関係で公式に確認できるのは、Paraviとの統合直後から作品を有料配信したことです。
U-NEXTは2023年3月31日付で、Paraviを運営していたプレミアム・プラットフォーム・ジャパンと経営統合しました。
同年6月30日にはサービスを統合し、TBSとテレビ東京の番組約1万エピソード以上を順次配信すると発表。その新作ラインナップに、7月16日放送開始の『VIVANT』も含まれていました。
統合時点でU-NEXTは、有料会員数385万人以上、配信コンテンツ36万本以上の規模を公表しています。
『VIVANT』はサービス統合から約2週間後に始まったため、TBSドラマを新しい配信基盤へ運ぶ象徴的な作品だったと見ることはできます。
ただし、U-NEXTの発表資料に記載されているのは、サービス統合、配信作品、会員数、コンテンツ数などです。
『VIVANT』に対する出資額、配信権料、制作費の負担割合、利益配分は公表されていません。契約当事者が開示していない以上、外部から正確な金額を確認できないのです。
土屋敏男さんはSCREEN ONLINEの記事で、U-NEXTが制作費の一部を負担した可能性を分析しています。
しかし、これはテレビ業界を知る実名関係者の推測であり、TBSとU-NEXTが契約内容を共同発表したものではありません。
ここで事実と分析を分けると、次のようになります。
確認できる事実
- U-NEXTとParaviは2023年6月30日にサービス統合した
- 『VIVANT』は同年7月16日に放送を開始した
- U-NEXTは『VIVANT』を全話見放題で配信した
- TVerとTBS FREEでは期間限定の無料配信が行われた
- 制作費の負担額や配信契約額は公表されていない
筆者として考えられる配信側の利点
- 大型新作を目的にした新規会員の獲得
- 毎週の更新と全話アーカイブによる解約の抑制
- 『VIVANT』から旧ParaviのTBS作品への回遊
- 放送終了後も作品を視聴できる長期的な資産価値
- 続編放送時の第1シーズン再視聴による利用促進
第1話は、U-NEXTの国内ドラマ作品における歴代初週視聴ランキングで1位を記録しました。2023年のU-NEXT年間ランキングでも、『VIVANT』は国内ドラマ部門の1位となっています。
この成果から、U-NEXTにとって価値の高い作品だったことは分かります。
しかし、配信で人気だったことと、制作費を出資したことは同じではありません。観客席が満員だったからといって、劇場の建設費を観客が負担したことにはならないのと同じです。

VIVANTは広告・配信・海外展開で制作費を回収できた?
『VIVANT』が会計上の黒字だったかどうかは、公開情報だけでは判断できません。
判断に必要な制作費、宣伝費、広告収入、配信契約料、海外販売額、商品利益などが公表されていないためです。
一方で、作品が複数の窓口で大きな成果を残したことは確認できます。
TBSによると、第1シーズン全10話のタイムシフトを含むテレビ放送の総視聴人数は、全国32地区で6000万人を超えました。
無料配信では、TVerとTBS FREEにおける本編の累計再生数が、2023年9月にTBSドラマ史上最速で4000万回を突破しています。
有料配信ではU-NEXTの国内ドラマランキングで記録を残し、作品は「東京ドラマアウォード2024」の連続ドラマ部門グランプリなどを受賞しました。
フランス・カンヌの国際コンテンツ見本市MIPCOMでも、海外バイヤーが選ぶ日本ドラマの賞でグランプリに選ばれています。
これらは売上や利益そのものではありません。
ただし、テレビ放送だけで終わらず、無料配信、有料配信、海外評価、商品、イベント、再放送、続編へ価値が連鎖したことを示しています。
大型ドラマの回収機会は、主に次の5つに分けられます。
1. 地上波広告
注目度の高い番組にCMを出稿する企業から、放送局が広告収入を得ます。
1. 有料配信
配信を目的とした新規加入や、全話視聴による利用継続が期待できます。
1. 無料配信広告
TVerやTBS FREEで広告を付けて配信し、放送を見逃した視聴者にも作品を届けます。
1. 海外販売と長期配信
字幕や吹き替えを用意し、国内放送終了後も別の地域やサービスで収益化する機会を持てます。
1. 二次利用と続編
再放送、商品、イベント、書籍、映像ソフト、関連番組、続編などへ作品を展開できます。
重要なのは、これらが『VIVANT』の具体的な利益配分を示したものではなく、実際に確認できる展開から考えられる回収経路だということです。
「最初からすべてを計算していた」と断定できる内部資料はありません。
それでも、2026年3月末にTBSが第2シーズンの2クール連続放送を発表し、2026年7月26日から第11話として再開することは、作品を長期的に育てる判断が下された材料になります。
第11話は、第1シーズン最終回で乃木憂助の前に赤い饅頭が置かれた直後から始まります。
TBSの公式あらすじでは、赤い饅頭が別班の緊急招集を告げるサインだったことも明記されました。
僕は、この「第11話」という数え方に作品の事業設計が表れていると感じます。
別タイトルの新作として再出発するのではなく、第1シーズンと一本の道でつなぐ。そうすることで、続編を見る前に第1話から見直す理由が生まれ、過去作が再び働き始めます。
配信事業者にとっても、旧作への回遊は加入の入口だけでなく、視聴時間を長くする力になります。
制作費を10週間で使い切る放送費ではなく、数年間にわたって再利用する映像資産として考える。これが『VIVANT』の資金構造を見るうえで、僕が最も重要だと思う視点です。

VIVANT制作費とU-NEXT・TBS資金構造の結論
『VIVANT』の制作費「1話1億円」は、TBSが発表した公式額ではありません。
第1シーズンについては元テレビプロデューサーが紹介した業界内の噂、第2シーズンについては匿名のTBS局員とされる人物の証言が報じられています。
一般的な日本の1時間ドラマは1話約3000万~4000万円が一つの目安です。
『VIVANT』が1話1億円だった場合は、その約2.5~3.3倍ですが、正確な制作費や総額は確認できません。
高額化を裏づける材料としては、モンゴルでの2か月半の撮影、約1000キロの縦断、長期間の砂漠ロケ、多国籍の出演者、大人数の撮影体制、アクション、車両、美術、編集などがあります。
資金面では、公式クレジットの「製作著作 TBS」が制作の中心を示しています。
一方、花王、SUBARU、日本生命、サントリーなどの番組提供企業はCM広告主であり、各社が制作費を直接いくら負担したかは分かりません。
U-NEXTはParaviとのサービス統合直後に『VIVANT』を配信した重要な事業パートナーです。
しかし、制作費の出資額や配信契約料は公表されておらず、「U-NEXTが1話1億円を出した巨大スポンサー」と断定する根拠はありません。
また、広告収入、配信料、海外販売額などが非公表であるため、作品が黒字だったかも判断できません。
確認できるのは、総視聴人数6000万人超、無料配信4000万回超、U-NEXTでの視聴記録、国内外での受賞、そして2クールの第2シーズンへつながったという成果です。
『VIVANT』を支えたのは、一社だけの巨大な財布ではなかった可能性が高いでしょう。
TBSの制作と放送、企業の広告、有料配信、無料配信、海外展開、二次利用、続編。その役割を分けた車列が、同じ目的地へ走っていく。
砂漠を越えたのは乃木たちだけではありません。
日本のテレビドラマそのものが、放送した夜だけで作品を終わらせない、新しい道へステアリングを切った。その転換点に『VIVANT』は立っていると、僕は感じています。
よくある質問
VIVANTの制作費は本当に1話1億円ですか?
1話約1億円との報道や関係者証言はありますが、TBSは正確な制作費を公表していません。公式確定額ではなく、報道値として扱うのが適切です。
VIVANTのスポンサーはU-NEXTですか?
U-NEXTは全話見放題配信を行った重要な事業パートナーです。ただし、制作費の出資額や配信契約料は非公表で、単独スポンサーだったという発表もありません。
VIVANTは制作費を回収できたのでしょうか?
制作費、広告収入、配信料、海外販売額が公開されていないため、黒字かどうかは判断できません。ただし、テレビ、無料配信、有料配信、受賞、続編という複数の成果は確認できます。
執筆:岸本 湊人
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