朝ドラ『ブラッサム』に原作はなく、宇野千代の人生を再構成したオリジナルフィクションです。
脚本は櫻井剛さんと小松與志子さん。綿矢りささんの小説はドラマではなく、YOASOBIが歌う主題歌の原作です。
一冊の本を映像化するのではなく、約100年の人生から何を選び、何を描かないのか。そこに『ブラッサム』を見る大きな面白さがあります。
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朝ドラ『ブラッサム』に原作はある?公式発表の結論
2026年度後期のNHK連続テレビ小説『ブラッサム』に、原作小説はありません。
2025年5月29日にNHK大阪放送局で行われた制作・主演発表では、作家・宇野千代の生きざまを大胆に再構成し、フィクションとして描くオリジナル作品だと説明されました。
2026年5月21日の追加発表でも、実在人物をモチーフにする一方、登場人物名や団体名などを一部変更し、原作のないフィクションとして制作することが明記されています。ステラnet | NHK財団が運営するネットメディア+1
主人公は、石橋静河さんが演じる葉野珠(はの・たま)です。
葉野珠という名前の小説家が実在したわけではなく、その人生のモデルとなっているのが宇野千代です。
結論を整理すると、次のようになります。
確認したいこと 結論
ドラマ『ブラッサム』の原作 なし
主人公・葉野珠のモデル 作家・宇野千代
ドラマの脚本 櫻井剛、小松與志子
綿矢りさの書き下ろし小説 YOASOBI主題歌の原作
宇野千代の『生きて行く私』 ドラマや主題歌を理解する参考作品
ここで重要なのは、実在モデルがいることと、原作があることは同じではないという点です。
原作付きドラマでは、小説や漫画などに物語の基本構造があります。登場人物の関係、事件の順番、物語の結末も、原作を土台として映像向けに再構成されるのが一般的です。
一方、『ブラッサム』の材料となるのは、宇野千代が歩んだ人生、残した作品、当時の記録、周囲の人々との関係です。
そこからどの出来事を選び、何人かの実在人物を一人の登場人物へまとめるのか。記録に残っていない会話や感情をどう補うのかは、脚本家と制作陣の判断に委ねられます。
『生きて行く私』もドラマの原作ではない
宇野千代には、自らの人生を振り返った自伝的作品『生きて行く私』があります。
宇野千代の波乱に富んだ経歴や人生観が記されているため、「この本が朝ドラの原作なのでは」と考える人もいるでしょう。
しかし、『ブラッサム』は『生きて行く私』を章ごとに映像化する作品ではありません。
同書は宇野千代を知るための重要な一冊ですが、ドラマにはドラマ独自の主人公名、人間関係、会話、物語構成があります。

この違いを押さえておけば、放送後に史実とは異なる人物や出来事が描かれても、すぐに「間違い」と判断せずに済みます。
『ブラッサム』は宇野千代の人生を再現する答え合わせではなく、その生き方を材料に、新しい一人の女性・葉野珠を咲かせる物語なのです。
宇野千代モデルと主人公・葉野珠はどう違う?
葉野珠のモデルとなった宇野千代は、1897年に山口県玖珂郡岩国町、現在の岩国市で生まれました。
23歳のときに懸賞小説へ応募して作家への道を開き、『色ざんげ』『おはん』『刺す』『薄墨の桜』などを発表しました。
1936年には女性向けファッション誌『スタイル』を創刊し、出版事業や着物のデザインにも活動を広げています。1990年に文化功労者となり、1996年に98歳で亡くなりました。ステラnet | NHK財団が運営するネットメディア+2宇野千代 – 岩国の旅 -+2
『スタイル』は「日本初のファッション誌」と紹介されることもあります。
ただし、何を日本初とするかは雑誌の対象や定義によって表現が分かれるため、この記事では確認しやすい事実に絞り、宇野千代が1936年に創刊した女性向けファッション誌と表現します。
宇野千代は結婚と離婚をそれぞれ4回経験したことから、しばしば「恋多き女性」という言葉で紹介されてきました。
けれども、恋愛遍歴だけに焦点を合わせると、執筆、編集、出版、服飾という複数の仕事を生み出し、失敗しても再出発した創作者としての姿が小さくなってしまいます。
僕の胸に残るのは、恋の数ではありません。
生活が崩れても、もう一度原稿用紙の前へ戻ろうとした執念です。
葉野珠の物語として発表されている内容
NHK側の物語紹介によると、葉野珠は1897年に山口県岩国で誕生します。
珠は2歳のときに実母を亡くし、父と、父の後妻である継母に育てられました。
女学校を卒業した後は代用教員として働きますが、やがて解雇され、故郷の岩国を離れることになります。
親戚を頼って上京した珠は、幼い頃に抱いていた「小説を書きたい」という夢を改めて意識し、懸賞への応募をきっかけに作家への道を切り開いていきます。
その後に待つのは、関東大震災、戦争、結婚と離婚、事業の倒産、借金です。
敵を作り、誤解され、誰かを傷つけ、自分も傷つきながら、それでも珠は書くことを手放しません。小説に思いを忍ばせ、読む人へ幸せを運ぶ作家へ成長していくと発表されています。ステラnet | NHK財団が運営するネットメディア+1

ここまでが、放送前に明らかになっている物語の骨格です。
実際の会話、出来事が起きる順番、周囲の人物との関係、珠が何を後悔するのかまでは、ドラマを見なければ分かりません。
劇中には、父の葉野清治、継母の葉野リョウ、若き小説家の西尾一路、文芸雑誌『首都公論』の編集者たちなどが登場します。
葉野清治を渡部篤郎さん、葉野リョウを国仲涼子さん、西尾一路を染谷将太さんが演じます。『首都公論』では、編集長の黒崎大三郎を遠藤憲一さん、副編集長の山中勇三を井浦新さんが演じることも発表されました。ステラnet | NHK財団が運営するネットメディア+1
ただし、それぞれが宇野千代の人生に登場した誰をモデルにしているのか、複数の実在人物を統合しているのかは、すべて公表されているわけではありません。
放送前の段階で「この人物は実在した誰々に違いない」と断定するのは避けたほうが安全です。
宇野千代の本は『ブラッサム』を見る補助線になる
放送を前に、宇野千代の著作も改めて刊行されています。
大和書房の公式書誌では、文庫版『幸福人生まっしぐら』の出版年月日を2026年6月8日と掲載しています。一方、同社の発売告知では6月10日発売と案内されているため、書誌上の日付と店頭発売日の表記が異なると考えられます。
同書は224ページ、定価990円で、中野信子さんの解説が収録されています。大和書房+1
この本もドラマの原作ではありませんが、宇野千代が困難をどのように受け止め、幸福をどう捉えていたのかを知る補助線にはなるでしょう。
人生を知ってからドラマを見ると、葉野珠が宇野千代から受け継いだ部分と、脚本によって新しく与えられた部分が、より鮮明に見えてくるはずです。
『ブラッサム』の脚本家は櫻井剛と小松與志子
『ブラッサム』の脚本を担当するのは、櫻井剛さんと小松與志子さんです。
2025年5月29日の制作・主演発表では、櫻井剛さんが「作」として発表されました。
その後、2026年5月21日に小松與志子さんの参加が明らかになり、二人による脚本体制となりました。具体的な担当週や執筆回の分担は、現時点で公表されていません。ステラnet | NHK財団が運営するネットメディア+1
櫻井剛は「出来事」より生活の揺れを描く
櫻井剛さんは、『マルモのおきて』『ミス・パイロット』『表参道高校合唱部!』、NHK夜ドラ『あなたのブツが、ここに』などを手がけてきました。
連続テレビ小説『ブギウギ』では、第9週と第10週など複数週の脚本を担当しています。
第9週では、妻のツヤを亡くした梅吉が酒に溺れ、悲しみを抱えたスズ子の感情が父との衝突によって噴き出しました。
ここで描かれたのは、単に「母を亡くして悲しい」という説明ではありません。食卓や酒、親子の会話が崩れていく様子によって、喪失が家族の日常をどう変えるのかを見せていました。まいどなニュース
『あなたのブツが、ここに』では、コロナ禍で仕事を失ったシングルマザーの山崎亜子が、キャバクラ嬢から宅配ドライバーへ転身します。
主人公の再出発は、突然の成功ではなく、荷物を運び、届け先の生活に触れ、失敗しながら働き続ける日々の中に描かれました。テレビガイド+1
この二作品に共通するのは、大きな社会変化を、暮らしの小さな揺れへ落とし込む視点です。
『ブラッサム』にも震災や戦争という大きな歴史が登場します。
しかし、歴史年表を映像化するだけでは、葉野珠の心は見えてきません。
震災後の部屋に何が残ったのか。戦時下で何を書けなくなったのか。借金を抱えた朝に、誰とどんな顔で食卓を囲んだのか。
櫻井さんの脚本では、そうした生活の細部が、珠の心の走行距離を伝える重要な場面になると僕は考えています。
小松與志子は実話の痛みを単純化しない
小松與志子さんの主な脚本作品には、『全力離婚相談』『そろばん侍 風の市兵衛』『うつ病九段』などがあります。
『うつ病九段』は、棋士・先崎学さんの実体験をもとにした著作を原作とし、うつ病を発症した先崎九段が家族に支えられながら復帰を目指す物語です。
劇中では、将棋界の仕事と対局を抱えた先崎が心身の限界を迎え、入院後は長期療養と将棋の禁止を告げられます。将棋のルールさえ理解できなくなる姿も描かれました。WEBザテレビジョン+1
大切なのは、病気を一度の感動的な出来事で克服させず、本人の苦しみと、そばにいる家族の戸惑いを並べて描いたことです。
宇野千代をモデルにした物語でも、同じ慎重さが求められます。
珠の自由な選択には、本人を救う面がある一方、その選択によって置き去りにされる人や傷つく人もいるはずです。
珠だけを正義にしてしまえば、周囲の人物は主人公を輝かせるための道具になります。
反対に、周囲の批判だけを強調すれば、時代の制約を破ろうとした女性の挑戦が、単なる身勝手として処理されかねません。
その両方を見つめる脚本が必要です。

制作統括の村山峻平さんは、小松さんの参加発表時に、櫻井さんの優しいまなざしから生まれる世界観と、小松さんが切り取る表現者のエネルギーが相互作用していると説明しました。ステラnet | NHK財団が運営するネットメディア
これは単に執筆量を分担する二人体制ではなく、異なる視点を重ねる狙いがあることを示しています。
櫻井さんが生活の温度を描き、小松さんが実在モデルを扱う際の痛みや緊張感を加える。
その組み合わせが機能すれば、葉野珠は「前向きで強い朝ドラヒロイン」という一色ではなく、優しさ、野心、弱さ、身勝手さを同時に抱えた人物になるでしょう。
綿矢りさの小説と原作なしの『ブラッサム』で注目する点
『ブラッサム』を検索すると、「綿矢りさが原作を書き下ろした」という情報が見つかります。
これは間違いではありませんが、何の原作なのかを区別する必要があります。
綿矢りささんが書き下ろしたのは、ドラマの原作ではなく、YOASOBIが担当する主題歌の原作小説です。
2026年7月23日の主題歌発表では、「小説を音楽にするユニット」であるYOASOBIの楽曲制作に向け、綿矢さんが小説を書き下ろしたことが明らかになりました。ステラnet | NHK財団が運営するネットメディア+1
表現が生まれる流れは、次のとおりです。
- 宇野千代の人生をモデルにドラマ『ブラッサム』を制作する
- 綿矢りさが主題歌のための小説を書き下ろす
- Ayaseが小説と宇野千代の人生を受け取り、楽曲を制作する
- ikuraが葉野珠の生き方を思いながら歌う
- 完成した主題歌がドラマ全体に寄り添う
Ayaseさんは楽曲制作にあたり、宇野千代の『生きて行く私』を読み、さらに出生地の山口県岩国市を訪れたと明かしています。
宇野千代の考えに触れ、故郷の空気を体感したうえで楽曲を作ったという位置づけであり、『生きて行く私』がそのまま歌詞になるわけではありません。ステラnet | NHK財団が運営するネットメディア+1

僕は、この複数の表現が重なる構造に『ブラッサム』らしさを感じます。
宇野千代が作品を残し、その人生を脚本家が葉野珠の物語へ変え、綿矢りささんが別の小説を書き、YOASOBIが音楽へ変換する。
一人の作家が残した生命力が、時代を越えて別の創作者へ手渡されていくのです。
原作なしだから「何を描かないか」に意味が出る
ここからは、発表済みの情報を踏まえた僕の考察です。
『ブラッサム』で注目すべきなのは、宇野千代の人生から何を採用するかだけではありません。
何を省き、何を組み合わせ、どの順番で見せるのかです。
約100年の人生を半年間の朝ドラに収めるには、出来事の省略や統合が避けられません。
史実を選び直す作業そのものが、制作陣から2026年の視聴者へ送るメッセージになります。
たとえば、結婚と離婚を物語の中心に置けば、「社会の常識に縛られなかった女性」という印象が強くなります。
一方、執筆、出版、経営、着物の仕事に時間を割けば、何度も職業を作り直した実業家・創作者としての姿が前へ出ます。
どちらも宇野千代の一部ですが、配分によって視聴者が受け取る人物像は大きく変わります。
恋愛遍歴の扱いには二つの危険がある
恋愛や結婚を刺激的な話題として並べるだけなら、「恋多き女性」という古いイメージを再生産する危険があります。
男性作家なら創作の背景として扱われる恋愛が、女性作家の場合だけ人物評価の中心になる。その偏りを無自覚に繰り返してはいけません。
ただし、恋愛や離婚の影響を避け、珠を迷いのない理想的な女性へ整えることも適切ではないでしょう。
自由を選ぶ過程で誰かを傷つけたのなら、その結果まで描かなければ、実在モデルの複雑さを美談へ変えてしまいます。
僕が期待するのは、珠を裁く脚本でも、無条件に称賛する脚本でもありません。
彼女の選択には理由があり、周囲が傷つくことにも理由がある。その両方が同じ画面に存在する物語です。
人生のステアリングを切るとき、すべての人が同じ方向へ進めるとは限りません。
珠が前へ進んだ道の後ろに、誰の痛みが残ったのか。そこまで映せたとき、『ブラッサム』は単なる成功者の伝記を超えるはずです。
史実との一致率より葉野珠の感情がつながるか
モデル作品を見るとき、史実との違いを探す楽しみはあります。
しかし、人物名や団体名を変えたフィクションで本当に問われるのは、出来事の再現率だけではありません。
故郷を離れた珠が、なぜ小説へ向かったのか。
震災や戦争を経験した後も、なぜ言葉を捨てなかったのか。
誰かと別れた後、何を失い、何を作品へ変えたのか。
その感情が一本の線としてつながれば、史実の順番を変更してもドラマとしての説得力は生まれます。
反対に、有名な出来事を次々と再現しても、珠の心が見えなければ、朝ドラは経歴紹介の映像になってしまいます。
僕が見届けたいのは、作家として成功した瞬間だけではありません。
書けない夜に机へ戻るまでの沈黙や、失敗を認めるまでの遠回りです。
原稿用紙に向かう指先は小さくても、その一文字には人生を立て直す力が宿ることがあります。
『ブラッサム』という題名が本当に響くのは、満開の成功を描いたときではなく、何も咲いていないように見える季節にも、珠が根を伸ばしていたと分かる瞬間ではないでしょうか。
まとめ
朝ドラ『ブラッサム』に原作小説はありません。
実在した作家・宇野千代をモデルに、主人公名や団体名などを一部変更し、葉野珠の人生として大胆に再構成するオリジナルフィクションです。
脚本は櫻井剛さんと小松與志子さんが担当しますが、二人の具体的な執筆分担は公表されていません。
また、綿矢りささんの書き下ろし作品はドラマではなく、YOASOBIが担当する主題歌の原作小説です。宇野千代の『生きて行く私』は、Ayaseさんが楽曲制作のために読んだ参考作品にあたります。
『ブラッサム』を見るときは、史実と一致しているかだけでなく、宇野千代の約100年から制作陣が何を選び、葉野珠の心へどう結びつけるのかに注目してみてください。
ドラマが終わった後、僕たちの胸に残るのは、華やかな経歴の数ではないはずです。
何度散っても、また言葉を咲かせようとした一人の女性の、その静かな強さなのだと思います。
よくある質問
朝ドラ『ブラッサム』に原作小説はありますか?
ありません。宇野千代をモデルにしながら、人物名や団体名などを一部変更して描くオリジナルフィクションです。
『ブラッサム』の脚本家は誰ですか?
櫻井剛さんと小松與志子さんです。櫻井さんは2025年5月29日の制作・主演発表で公表され、小松さんの参加は2026年5月21日に発表されました。
綿矢りさの小説は『ブラッサム』の原作ですか?
ドラマの原作ではありません。綿矢りささんの書き下ろし作品は、YOASOBIが担当する主題歌の原作小説です。
執筆:岸本 湊人
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