『ダブルエッジ~甦った男』の脚本家は神森万里江さんです。代表作と本作に表れた脚本の特徴を詳しく解説します。
神森万里江さんは『相棒』『記憶』『この恋あたためますか』『アトムの童』など、ミステリーから恋愛、企業ドラマまで幅広い作品を手がけてきました。僕が過去作と『ダブルエッジ』を比較して注目したのは、対照的な人物配置、事件や仕事と人物変化の同期、物語の進行によって人物評価を更新させる構成という3つの軸です。
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『ダブルエッジ』の脚本家は誰?神森万里江が担当
『ダブルエッジ~甦った男』の脚本を担当したのは、神森万里江(かみもり・まりえ)さんです。
テレビ朝日の番組情報では、脚本は神森万里江さん、監督は樹下直美さん。ゼネラルプロデューサーは横地郁英さん、プロデューサーは川島誠史さん、土田真通さん、栗生一馬さんと明記されています。
主要スタッフを整理すると、次の通りです。
担当 氏名
脚本 神森万里江
監督 樹下直美
ゼネラルプロデューサー 横地郁英
プロデューサー 川島誠史、土田真通、栗生一馬
制作 テレビ朝日、東映
『ダブルエッジ~甦った男』は、2026年6月27日午後9時から午後10時54分までテレビ朝日系で放送されたスペシャルドラマです。主演は織田裕二さん、ヒロインは小野花梨さんが務めました。
織田裕二さんが演じる郡司孝介は、かつて「捜査一課のエース」と呼ばれていた刑事です。
しかし3年前、連続殺人犯・馬飼野隆一と接触した現場で刺され、その後は車椅子を利用して生活しながら、所轄の生活安全課で勤務していました。
物語の発端は、大物政治家の娘が殺害され、その遺体が河川敷で発見される事件です。
犯行の状況は、3年前に死亡したと考えられていた馬飼野隆一の手口と酷似していました。現場などから採取された毛髪を調べると、3年前に保存されていた馬飼野のものと一致し、元捜査一課の郡司が捜査へ呼び戻されます。
そして郡司が捜査のパートナーとして望んだのが、小野花梨さん演じる警視庁捜査二課の財務捜査官・阿久都華瑠です。
華瑠はASD(自閉スペクトラム症)がある人物として描かれ、一度見たものを記憶できる能力を持つ一方、決められた予定以外への対応に難しさを感じるという設定があります。郡司は街で偶然出会った華瑠の能力と洞察力を評価し、自らサポート役に希望しました。
ここで僕が注目したのは、物語の冒頭から二つの問いが同時に走り出すことです。
- 死亡したはずの馬飼野と酷似した事件の真相は何か
- 郡司と華瑠という正反対の二人は、本当に捜査のパートナーになれるのか
この二つは、別々の物語ではありません。
事件の謎が一段深くなるたびに、二人は相手の能力を知り、自分のやり方だけでは足りないことに気づいていく。
僕は、この「事件を解く時間」と「人間関係が変わる時間」を同じ時計で動かしていることが、『ダブルエッジ』の脚本を理解する最初の鍵だと感じました。
神森万里江はどんな脚本家?経歴と代表作を整理
神森万里江さんは、刑事ドラマだけを専門にする脚本家ではありません。
日本脚本家連盟スクールの講師プロフィールでは、代表作としてドラマ『相棒』『アトムの童』『やんごとなき一族』『この恋あたためますか』『記憶』『ラヴソング』『恋に落ちたおひとりさま~スタンダールの恋愛論~』、映画『女々演』が挙げられています。
なお、同プロフィールでは生年や出身地などの詳しい個人情報は紹介されていません。
そのため本記事では、不確かなプロフィールを補うのではなく、公式に確認できる脚本クレジットを中心に活動歴を整理します。
神森万里江の活動歴は?
公開されている作品情報をたどると、少なくとも2010年代半ば以降、テレビドラマ、連続ドラマ、スペシャルドラマ、映画と幅広く脚本を手がけてきたことが分かります。
2018年公開の映画『女々演』では脚本を担当。同年放送の連続ドラマ『記憶』でも脚本を担当し、さらに2018年10月31日放送の『相棒 season17』第3話「辞書の神様」から、『相棒』シリーズで複数のエピソードを手がけています。
2020年の『この恋あたためますか』では青塚美穂さんとともに脚本にクレジットされ、2022年の『やんごとなき一族』でも公式スタッフ情報に神森万里江さんと青塚美穂さんの名前が記載されています。
一方、2022年の日曜劇場『アトムの童』では、TBS公式スタッフページの脚本欄に神森万里江さんが単独で記載されています。TBSは同作を神森さんによる完全オリジナルストーリーとして紹介しました。
そして2026年には、『相棒 season24』の元日スペシャル第10話「フィナーレ」や第18話を担当し、同年6月放送の『ダブルエッジ~甦った男』でも脚本を務めています。
作品歴を、脚本クレジットの形と合わせて整理すると次のようになります。
作品 年 放送・公開 脚本クレジットの確認方法
『女々演』 2018 映画 神森万里江が脚本、青塚美穂が脚本協力
『記憶』 2018 フジテレビ系関連 神森万里江が脚本
『相棒』シリーズ 2018年以降に複数回 テレビ朝日 各担当回に神森万里江が脚本としてクレジット
『この恋あたためますか』 2020 TBS 神森万里江、青塚美穂
『やんごとなき一族』 2022 フジテレビ 神森万里江、青塚美穂
『アトムの童』 2022 TBS 神森万里江
『ダブルエッジ~甦った男』 2026 テレビ朝日 神森万里江
ここで大切なのは、代表作に名前があることと、その作品のすべてを一人で執筆したことは同じではないという点です。
連続ドラマでは複数の脚本家がクレジットされる作品もあります。
したがって、共同脚本作品を含む複数作品の共通点を語る場合は、「神森万里江さんだけの特徴」と断定するより、神森さんが参加した作品群に繰り返し見られる傾向として慎重に分析する必要があります。
一方、『相棒』のように各エピソードの脚本担当が公式に確認できる作品は、神森さんの構成を考えるうえで、より直接的な材料になります。

僕は脚本家の作風を考えるとき、作品タイトルを並べるだけでは不十分だと思っています。
どの作品が単独脚本としてクレジットされているのか。
どの作品は複数の脚本家が参加しているのか。
一話完結型のシリーズでは、具体的にどの回を担当したのか。
そこを分けて見ることで、初めて「この脚本家は何を描こうとする人なのか」が少しずつ見えてきます。
神森万里江さんの場合、その輪郭をつかむ手がかりとして特に興味深いのが、『相棒』の担当エピソードです。
『相棒』の担当回から分かる神森万里江の脚本の特徴
神森万里江さんは、『相棒』シリーズで複数のエピソードを担当しています。
公式情報で確認できる代表的な担当回には、season17第3話「辞書の神様」、season18第3話「少女」、season18第11話の元日スペシャル「ブラックアウト」、season22初回拡大スペシャル第1話「無敵の人~特命係VS公安…失踪に潜む罠」などがあります。
僕はこれらを見比べると、神森脚本を考えるうえで三つの傾向が見えてくると感じます。
専門性のある人物を、能力だけで描かないこと。
事件の第一印象を途中で更新すること。
小さな違和感を、より大きな人間関係や社会構造へ広げていくこと。
「辞書の神様」は能力と人生を切り離さない
season17第3話「辞書の神様」は、2018年10月31日に放送され、神森万里江さんが脚本を担当しました。
物語では、国語辞典の編集に関わる人物の死をきっかけに、「辞書の神様」と呼ばれる人物や、辞書編集をめぐる人間関係が浮かび上がっていきます。
僕がこの回で重要だと感じるのは、「言葉に詳しい人物が、その知識で事件を解決する」という単純な能力ドラマになっていないことです。
なぜ、その人物は言葉に執着するのか。
才能や専門性は、その人を幸福にしているのか。
長年積み重ねてきた仕事は、周囲との関係に何を残したのか。
専門性が事件を動かすと同時に、その人物の生き方まで照らしていく。
この構造は、『ダブルエッジ』の華瑠の描き方を考えるうえでも興味深い共通点です。
華瑠の記憶力や洞察力は、謎解きを便利に進めるためだけの装置ではありません。
その能力を持つ一人の人間が、どう働き、どう他者と関わり、どんな状況に難しさを感じるのか。そこまで含めて人物を動かそうとしている点に、僕はつながりを感じます。
「少女」は人物の第一印象を更新していく
season18第3話「少女」は、2019年10月23日に放送されました。
猫探しという日常的な入口から始まり、殺人事件、少女の連れ去りへと展開します。公式あらすじでは、容疑者と見られる男の動機を追う一方、連れ去られた少女にも誰にも言えない秘密があることが示されています。
この回から見えてくるのは、最初に与えられた人物像を、そのまま最後まで信じてはいけない構成です。
犯人に見える人。
守られるだけの存在に見える人。
事情を知っているように見える人。
物語が進むたび、それぞれの見え方が変わっていきます。
ミステリーの面白さは「犯人は誰か」だけではありません。
僕は、「自分はこの人物をどう見ていたのか」と視聴者自身に問い返す瞬間にも、強いドラマが生まれると思っています。
『ダブルエッジ』でも同じです。
郡司を「昔のやり方にこだわる昭和型刑事」という一言だけで見るのか。
華瑠を「驚異的な能力を持つ天才捜査官」という一言だけで見るのか。
物語は、その最初のラベルから少しずつ二人を解放していきます。
人は、プロフィール欄だけでは分からない。
事件の中で何を選ぶか。
相手のために何を変えるか。
そこで初めて、人物の本当の輪郭が見えてくるのです。

「ブラックアウト」「無敵の人」は小さな違和感から構図を広げる
season18第11話「ブラックアウト」では、地下駐車場での爆発と人質事件が発生します。
閉じ込められている人数と人質の人数が一致しないという違和感や、現在の事件と過去の事故の符合が、やがて大きな真相へつながっていきます。脚本は神森万里江さん、監督は橋本一さんです。
season22第1話「無敵の人」では、婚約者の失踪という相談を入口に、宗教団体、過去の爆弾テロ、公安をめぐる構図へと物語が拡大していきます。この回も神森万里江さんが脚本を担当しました。
入口は小さい。
しかし、その奥に別の事件がある。
さらに過去をたどると、最初には見えなかった構造が現れる。
僕は、この「違和感を階段にする」構成が神森さんのミステリー脚本を読むうえで面白い部分だと感じています。
『ダブルエッジ』も、まさにそうです。
「死亡したはずの連続殺人犯と毛髪が一致した」
この強烈な事実から物語が始まりますが、郡司と華瑠が現場を調べると、被害者を縛ったロープの結び方や、指紋が拭き取られたペットボトルなど、既存の見立てと食い違う点が浮かび上がります。
大きな謎を、さらに大きな事件で上書きするのではない。
むしろ、小さな矛盾を拾い、その意味を変化させていく。
派手な事件の中心に、静かな違和感を置く。
そこに、『相棒』の担当回から『ダブルエッジ』へ続く、神森万里江さんのミステリー構成の一端が見えるように僕は思います。
『ダブルエッジ』脚本の特徴は?3つの構成から分析
『ダブルエッジ』の脚本の特徴は、①対照的な人物配置、②事件と人物変化を同時に進める構成、③物語の途中で人物評価を更新させる設計の3点にあると僕は考えます。
これは公式が示した「作風の定義」ではありません。
作品情報、『相棒』の神森万里江さん担当回、単独脚本としてクレジットされた『アトムの童』などを比較したうえでの、僕自身の分析です。
1.対照的な人物配置を「説明」ではなく「行動」に変える
郡司孝介と阿久都華瑠は、最初から大きく異なる人物として配置されています。
郡司は「現場100回」を信条とする元捜査一課の刑事。
華瑠は捜査二課の財務捜査官で、一度見たものを記憶できる能力を持つ人物として描かれています。
この二人が面白いのは、単に「性格が合わない」からではありません。
事件を見る方法が違うからです。
郡司は経験を持っている。
華瑠には、郡司とは違う角度から情報を見る力がある。
一方が現場へ進もうとするとき、もう一方は矛盾を拾う。
一方が過去の経験から判断するとき、もう一方は目の前の情報を積み上げる。
この違いがあるため、脚本は「二人の性格は正反対です」と長く説明する必要がありません。
同じ証拠を見せる。
同じ現場に立たせる。
そこで異なる反応をさせれば、二人の人物像が自然に浮かびます。
僕は、ここがバディドラマとして非常に重要だと思っています。
設定資料では正反対でも、実際の場面で同じことしか言わない二人なら、ドラマは生まれません。
『ダブルエッジ』は、違いをプロフィールではなく場面発生装置として使っている。
だから二人が同じ空間にいるだけで、会話にも判断にも動きが生まれます。
この点は、神森さんの単独脚本として公式クレジットされている『アトムの童』とも比較できます。
同作では若きゲーム開発者・安積那由他を中心に、菅生隼人、富永海ら異なる立場や能力を持つ人物が関わり、ゲーム業界を舞台に大資本へ挑んでいきます。TBSは、那由他が周囲の人々との関わりによって成長していく物語として紹介しています。
天才が一人ですべてを終わらせるのではない。
技術がある人。
過去を共有する人。
会社を背負う人。
それぞれの役割が衝突しながら、同じ目標へ近づいていく。
『ダブルエッジ』でも、郡司と華瑠の違いは「どちらが優れているか」を決めるためではなく、一人では見えないものを二人で見るために使われていると感じました。
2.事件の進行とキャラクターの変化を同期させる
二つ目の特徴は、事件の進行と人物関係の変化を切り離していないことです。
『ダブルエッジ』では、郡司が3年前の事件につながる捜査へ戻ることと、華瑠と新しい関係を築き始めることが、ほぼ同時に起こります。
郡司にとって事件は、犯人を追う仕事だけではありません。
自分の人生を大きく変えた過去と、もう一度向き合う時間でもあります。
しかし、以前と同じ条件では戻れない。
身体の状況も変わっている。
所属も変わっている。
そして、隣には以前にはいなかった華瑠がいる。
僕はここに、副題の「甦った男」と響き合う脚本構造を感じました。
これは公式のタイトル解釈ではなく、僕自身の考察です。
甦るとは、過去の自分をそのまま再現することではない。
変わった現実を抱えながら、新しい方法で再び前へ進むこと。
郡司が事件の真相へ近づく時間と、華瑠との関係によって刑事として再び動き出していく時間は、別々ではありません。
同じ捜査の中で進みます。

僕は、職業ドラマの厚みはここで決まると思っています。
仕事の場面を終えてから、人間ドラマを始めるのではない。
仕事の仕方そのものに性格が出る。
危機への反応に過去が出る。
誰の判断を信じるかに、関係性の変化が出る。
だから事件が止まらなくても、人間ドラマは進められます。
『アトムの童』ではゲームを作り、会社を立て直し、巨大資本と向き合う行動が、そのまま人物同士の関係を変化させていました。
『ダブルエッジ』では、それが事件捜査です。
僕が両作の間に感じる共通点は、仕事と感情を別々のレールに乗せないことです。
事件を一つ解く。
相手への見方が少し変わる。
自分の限界を一つ知る。
それが次の判断につながる。
その積み重ねによって、ミステリーと人間ドラマが同じ速度で前へ進んでいきます。
3.人物への評価を物語の途中で更新させる
三つ目の特徴は、登場人物を最初のラベルに閉じ込めないことです。
『ダブルエッジ』の公式紹介では、郡司は昔ながらの「昭和型刑事」、華瑠は頭脳派の財務捜査官として対照的に紹介されています。
これは物語へ入るための分かりやすい入口です。
しかし脚本が本当に面白くなるのは、その入口の先でしょう。
現場主義だから、データを軽視する人なのか。
予定外の出来事への対応に難しさを感じるから、現場では力を発揮できないのか。
最初に視聴者が抱いた印象が、捜査を通して少しずつ書き換えられていく。
僕はこの「評価の更新」が、神森万里江さんの『相棒』担当回からも感じられる特徴だと考えています。
「少女」では、事件に関わる人物を第一印象だけでは判断できない構成が取られていました。
「辞書の神様」では、突出した専門性と、その人物が歩んできた人生が切り離されていませんでした。
『ダブルエッジ』でも、郡司と華瑠は互いを観察し、事件の中で新しい面を知ります。
二人は最初から理解し合っているわけではない。
しかし、一緒に捜査をする。
判断がぶつかる。
相手が自分には見えなかったものを見つける。
そこで、評価が変わる。
人間関係の変化を長い説明台詞だけに頼らず、相手の仕事を見ることで信頼を生ませる。
僕は、この描き方が『ダブルエッジ』のバディ関係に説得力を与えていると思います。
また、本作では役作りの段階でも慎重な準備が行われています。
小野花梨さんは、華瑠を演じるにあたり、ASDの当事者や家族と話す機会が設けられ、プロデューサーや監督と微調整を重ねながら人物を作ったと公式コメントで説明しています。
織田裕二さんも、実際に車椅子を使用して撮影したことで、砂利道での前輪の引っかかり、古い建物の床の傾き、夏の金属フレームの熱さなど、日常の中にあるさまざまな障壁に気づいたと振り返っています。
僕がここで大切だと思うのは、人物設定を「謎解きに便利な特殊能力」だけに縮小しないことです。
郡司には郡司の過去がある。
華瑠には華瑠の働き方や感情がある。
そのうえで二人の能力や経験が事件捜査に生かされる。
脚本家が人物の骨格を作り、監督、俳優、制作スタッフがそれぞれの専門性から人物像を具体化していく。
僕は『ダブルエッジ』の制作過程を知るほど、良い脚本とは、すべてを説明し切る文章ではなく、複数の専門性が参加して一人の人間を立ち上げられる設計図なのだと感じました。
岸本湊人の考察|神森万里江脚本に見える「再生」とバディの意味
ここからは、僕自身の考察です。
『ダブルエッジ~甦った男』は、「車椅子を利用する元捜査一課の刑事と、財務捜査官が連続殺人事件の謎を追うヒューマンミステリー」と説明できます。
しかし僕の胸に最も残ったのは、再生を“元に戻ること”として描いていないように見える点でした。
郡司は、3年前の事件によって人生の形を変えられています。
再び過去とつながる事件が起き、捜査の前線へ呼び戻される。
けれど、昔と同じ郡司に戻るわけではありません。
今の身体で。
今の立場で。
そして、以前はいなかった華瑠とともに事件へ向かう。
そこが重要です。
僕自身、年齢を重ねるほど、「やり直す」と「元に戻る」は違うのだと感じるようになりました。
人生は、バックギアに入れれば同じ交差点へ戻れる車ではありません。
同じ場所に見えても、時間は進み、自分も変わっています。
だから再生とは、以前の自分を再現することではなく、今の自分で走れる新しい道を見つけることなのかもしれません。
僕は郡司の物語から、そんな感触を受け取りました。
ただし、『ダブルエッジ』を郡司一人の再生物語として見るだけでは足りないとも思います。
華瑠もまた、郡司を立ち直らせるためだけの人物ではありません。
公式の作品紹介でも、現場へ駆り出されることで華瑠自身に変化が生まれ、その変化が郡司にも影響していく構図が示されています。
ここに、このバディの面白さがあります。
一方だけが救うのではない。
一方だけが教えるのでもない。
場面によって、助ける側が変わる。
判断を支える側も変わる。
人間関係が一方通行ではないのです。

僕が神森万里江さんの作品歴をたどって感じたのは、少なくとも単独脚本の『アトムの童』や『相棒』の担当回、そして『ダブルエッジ』には、能力のある人物を孤立した英雄として完結させない面白さがあることです。
どれほど優れた能力があっても、他者と出会えば摩擦が生まれる。
しかし、その摩擦があるから、自分一人では見えなかったものが見える。
『アトムの童』では、ゲームを作る才能だけで物語は完結しませんでした。
『相棒』の担当回では、一つの事件の背後にある事情を知ることで、人物の見え方が変わっていきます。
そして『ダブルエッジ』では、事件を追う行動そのものが、郡司と華瑠の関係を動かします。
正反対の二人を置くこと自体は、まだ「設定」です。
本当に重要なのは、その違いによって何を起こすかです。
衝突させる。
違う情報を拾わせる。
相手の判断に救われる場面を作る。
最初の評価を更新させる。
事件が真相へ近づくほど、人物同士の距離も変化させる。
そこまで動いて初めて、バディは宣伝文句ではなく、物語になるのだと思います。
『ダブルエッジ』というタイトルからは、二人の主人公や「もろ刃」のイメージも連想できます。
これは公式が明示した解釈ではありませんが、僕には、一人ひとりの性質が単純に「長所」と「短所」に分けられていないこととも響き合って見えました。
強い経験則は、決断力になる。
しかし、思い込みにつながることもある。
鋭い観察力は、大きな力になる。
一方で、その人にはその人なりの難しさもある。
同じ性質が、場面によって力にも課題にもなる。
だから二人は、同じ人間になる必要がありません。
違う刃を溶かして一つにするのではなく、違う形のまま同じ方向へ向ける。
僕は、それこそが『ダブルエッジ』のバディ設計の魅力だと考えています。
神森万里江さんの今後の作品を見るときも、僕は「どんな事件を書くのか」だけではなく、「どんな違いを持つ人間同士を出会わせるのか」に注目したいです。
恋愛ドラマ。
企業ドラマ。
家族ドラマ。
刑事ミステリー。
ジャンルが変われば、登場人物の目的も変わります。
それでも、違う価値観を持つ人物を同じ場所に立たせ、何かを一緒に成し遂げさせたとき、そこには必ず摩擦が生まれます。
その摩擦を対立だけで終わらせず、人物への理解や評価が変わる瞬間まで描けるか。
僕には、それが神森万里江さんの脚本を追いかける面白さの一つに思えます。
まとめ|『ダブルエッジ』脚本家・神森万里江の強みは人間関係を動かす構成力
『ダブルエッジ~甦った男』の脚本家は、神森万里江さんです。
日本脚本家連盟スクールの公式プロフィールでは、『相棒』『アトムの童』『やんごとなき一族』『この恋あたためますか』『記憶』『ラヴソング』などが代表作として挙げられています。
公開されている脚本クレジットを確認すると、映画『女々演』、連続ドラマ『記憶』、『相棒』の複数エピソード、共同脚本作品『この恋あたためますか』『やんごとなき一族』、単独で脚本クレジットされた『アトムの童』など、異なるジャンルの作品に参加してきたことが分かります。
僕が『ダブルエッジ』と過去作を比較して感じた脚本上の特徴は、次の3点です。
- 対照的な人物を置き、違いそのものから場面を生み出す
- 事件や仕事の進行と、人物関係の変化を同時に進める
- 物語を通して、登場人物への第一印象を更新させる
特に『ダブルエッジ』で印象的なのは、郡司と華瑠が、事件を中断して互いを理解するのではないことです。
事件を追う。
意見がぶつかる。
相手の能力を知る。
自分にはないものを認める。
その経験が積み重なり、関係が変わっていく。
僕は、この構造があるからこそ、『ダブルエッジ』は単なる「正反対の凸凹コンビもの」では終わらなかったのだと思います。
脚本とは、人物をゴールまで運ぶ地図に似ています。
けれど、胸に残る物語は最短距離だけを描きません。
遠回りがある。
見誤る瞬間がある。
自分とは違う方向を見ている人と、同じ事件を追わなければならないこともある。
そして最後に、隣にいた人が見ていた景色の意味を少しだけ理解する。
神森万里江さんの作品歴をたどりながら『ダブルエッジ』を見直すと、僕の胸にはそんな一本の線が残りました。
二人は、同じになる必要はない。
違うからこそ、一人では届かなかった場所へ行ける。
ドラマが終わったあとも、その静かな余韻が、僕の中でまだ消えずに灯っています。
よくある質問
『ダブルエッジ』の脚本家は誰ですか?
『ダブルエッジ~甦った男』の脚本家は神森万里江さんです。
監督は樹下直美さんで、2026年6月27日にテレビ朝日系で放送されました。
神森万里江の代表作は何ですか?
日本脚本家連盟スクールの公式プロフィールでは、『相棒』『アトムの童』『やんごとなき一族』『この恋あたためますか』『記憶』『ラヴソング』『恋に落ちたおひとりさま~スタンダールの恋愛論~』、映画『女々演』が代表作として紹介されています。
神森万里江は『相棒』のどの回を担当していますか?
公式情報で確認できる担当回には、season17第3話「辞書の神様」、season18第3話「少女」、season18第11話「ブラックアウト」、season22第1話「無敵の人~特命係VS公安…失踪に潜む罠」などがあります。
2026年のseason24では、元日スペシャル第10話「フィナーレ」と第18話でも脚本担当が公式に確認できます。
参考情報
本記事の事実確認には、テレビ朝日『ダブルエッジ~甦った男』公式サイトの番組概要・あらすじ・番組詳細・出演者コメント、テレビ朝日『相棒』各シーズン公式エピソードページ、日本脚本家連盟スクール「神森万里江 脚本家クラス講師プロフィール」、TBS『アトムの童』『この恋あたためますか』公式スタッフ情報、フジテレビ『記憶』『やんごとなき一族』公式情報、映画『女々演』公式サイトを参照しました。確認日は2026年7月4日です。
作品間の共通点、脚本構造、「ダブルエッジ」「甦った男」というタイトルの意味に関する分析は、公式に発表された作風説明ではなく、各作品の公式情報と脚本クレジットを踏まえた筆者個人の考察です。
岸本 湊人(ドラマ見届け人・湊の部屋)
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