漫画『キスは捜査のあとで』は、多古井と塩野が恋人になり、異動後も遠距離恋愛を続ける結末です。
取調室での突然のキスから始まった二人は、見合い相手をめぐる騒動、初めての外出、現場での負傷、痛烈な決裂を経て、互いを「特別な一人」として選びます。
※この記事は、漫画『キスは捜査のあとで』第1話から最終話までのネタバレと結末を含みます。
※2026年7月26日に放送が始まった実写ドラマ版ではなく、すう先生による原作漫画・全5話を基準に整理しています。ドラマ版には追加人物や変更された設定があるため、原作の出来事とは分けて解説します。実写ドラマ版の原作が同作であることは、JパブリッシングとABCテレビの公式情報でも確認できます。Jパブリッシング+1
最初に、検索されやすいポイントを簡潔にまとめます。
- 結末:多古井と塩野は正式な恋人になる
- 全話数:単話版は全5話で完結
- その後:塩野の異動後も遠距離恋愛を続ける
- 続編:『キスは捜査のあとで アゲイン』が刊行済み
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漫画『キスは捜査のあとで』最終回の結末は?
最終回では、多古井平助が異動を控えた塩野秀へ自分の気持ちを伝え、二人は恋人になります。
ただし、塩野の異動は取り消されません。
同じ山ノ道警察署で働き、警察寮の隣室で暮らしてきた二人は、離れた場所で交際を続ける遠距離恋愛へ進みます。
これは「離ればなれになる悲しい結末」ではありません。
仕事や住環境によって自然に会えていた関係から、電話をすることも、会いに行くことも、交際を続けることも自分たちで選ぶ関係へ変わったのです。
物語の序盤で、多古井は周囲から向けられる期待に応える人物でした。
住民から相談されれば手を貸し、見合いを勧められれば相手の厚意を無下にできず、塩野から好意をぶつけられても明確な答えを出せません。
そんな多古井が最後に選んだのは、周囲にとって無難な道ではなく、塩野を失いたくないという自分自身の感情でした。
僕は、この変化こそが最終回の本当の到達点だと感じます。
恋人になった事実以上に、受け身だった多古井が、自分の幸福に責任を持って動いたことが重要なのです。
続編『キスは捜査のあとで アゲイン』の公式紹介でも、二人が塩野の異動による遠距離恋愛を続けていることが明記されています。Jパブリッシング
原作漫画『キスは捜査のあとで』の基本情報
『キスは捜査のあとで』は、漫画家・すう先生による年の差BL漫画です。
物語の舞台は、程よく田舎にある山ノ道警察署。
刑事課の人情派刑事・多古井と、生活安全課に所属する毒舌な年下警察官・塩野の恋愛を、警察署の日常や現場対応と重ねながら描いています。
原作単行本の基本情報は次のとおりです。
- 作品名:『キスは捜査のあとで』
- 作者:すう
- 出版社:Jパブリッシング
- レーベル:arca comics
- 発売日:2024年9月25日
- サイズ:B6判
- ページ数:178ページ
- ISBN:978-4-86669-704-8
- 単話版:全5話完結
書誌情報は、Jパブリッシング公式書籍ページで2026年8月1日に確認しました。Jパブリッシング
電子書店によっては、単話配信の第1話から第5話をそれぞれ一冊として数え、「全5巻」と表示する場合があります。
一方、2024年9月25日に発売された単行本版では、全5話の本編が一冊に収録されています。
主人公の多古井は38歳のノンキャリア刑事です。
地元の老若男女から慕われ、誰に対しても分け隔てなく接する一方、自分が何を望んでいるのかを後回しにしやすい人物でもあります。
塩野は多古井より10歳年下の28歳で、準キャリアの警察官です。
仕事は有能ですが、多古井への恋心を素直に表現できず、嫉妬や不安を毒舌へ変えてしまいます。
二人は職場で顔を合わせるだけでなく、警察寮でも隣室同士です。
離れようとしても壁一枚向こうに相手がいる。その逃げ場のなさが、犬猿の仲だった二人の感情を少しずつ動かしていきます。
『キスは捜査のあとで』全5話ネタバレ
第1話ネタバレ|見合い話と取調室でのキス
第1話では、多古井の見合い話に追い詰められた塩野が、取調室で多古井にキスをします。
発端は、地域住民から多古井へ持ち込まれた見合い話です。
多古井は結婚を強く望んでいるわけではありませんが、紹介してくれた人や見合い相手の気持ちを考え、話を受け入れようとします。
多古井にとっては、人生の選択肢を一つ増やす程度の出来事でした。
しかし、長く多古井を思ってきた塩野にとって、見合いは片思いを終わらせるかもしれない重大な出来事です。
多古井が結婚すれば、職場や寮で近くにいられたとしても、自分の気持ちを伝える余地がなくなるかもしれません。
焦りを隠せない塩野は、多古井の誰にでも優しい態度を厳しく批判します。
自分だけを見てほしいのに、その本音を口にできず、「警察官として無防備だ」「他人との距離が近すぎる」という正論へ置き換えてしまうのです。
多古井は、なぜ自分にだけ攻撃的なのかと塩野を取調室へ連れていきます。
相手の本音を聞き出すはずだった多古井は、逆に塩野から距離を詰められ、突然キスをされました。
塩野は、キスをする理由は一つしかないという意味の言葉を残します。
長い説明をせずとも、それは多古井への告白でした。
多古井にとって、塩野は自分を嫌っている後輩だったはずです。
ところが、これまでの毒舌や苛立ちが、すべて恋心の裏返しだった可能性を突きつけられます。
取調室は、本来なら相手の証言から真実を探る場所です。
しかし、この場面では塩野がキスによって本心を自白し、多古井が自分の感情を捜査する側へ回りました。

第2話ネタバレ|見合い相手が警察寮まで来た理由
第2話では、多古井の見合い相手が、教えられていない警察寮まで押しかけ、塩野が多古井を助けます。
キスのあと、多古井は塩野の告白に答えられません。
男性から恋愛感情を向けられた経験がなく、これまで恋愛対象として見ていなかった塩野を、どう受け止めればよいのか分からないからです。
キスを嫌だったとは言い切れない。
塩野を避けたいわけでもない。
それでも、その感情をすぐに恋と認めることはできませんでした。
答えを保留したまま、多古井は見合い相手との連絡を続けます。
相手の女性は積極的に距離を縮め、やがて多古井が住所を教えていない警察寮まで訪ねてきました。
ここで起きているのは、単なる恋愛の積極性ではありません。
多古井が知らせていない生活圏を調べ、帰宅を待ち、戸惑う多古井の部屋へ入ろうとするという、明確な境界線の侵犯です。
多古井は警戒しながらも、相手を強く拒絶できません。
相手を傷つけたくない。
自分が我慢すれば場が収まる。
そんな多古井の優しさが、自分を守るべき場面では弱点になります。
そこへ帰宅した塩野が、二人の異変に気づきます。
塩野は多古井がはっきり言えなかった拒否の意思をくみ取り、見合い相手を部屋へ入れないように動きました。
多古井が助けを求める言葉を口にする前に、その表情や空気から危険を察知したのです。
この騒動によって、多古井は塩野の別の一面を知ります。
普段は嫌味ばかり言うのに、本当に困っているときには見捨てない。
冷たく見えても、多古井の小さな変化を誰より早く見抜いている。
塩野の愛情は、美しい台詞よりも、相手の境界線を守る行動に表れています。
僕がここで注目したのは、多古井が無意識のうちに塩野の存在へ安心していることです。
恋は、初めから鮮明な名前を付けて現れるとは限りません。
困った瞬間に来てほしいと思う相手や、隣に立たれた途端に緊張がほどける相手が、あとから「好きな人」だったと分かることもあります。

第3話ネタバレ|野球観戦と現場での負傷
第3話では、多古井と塩野が野球観戦へ出かけ、おそろいのボールペンを購入した後、仕事の現場で塩野が負傷します。
二人が出かけるのは野球観戦です。
塩野は事前に試合や球場について調べ、多古井との時間を楽しむための準備をしています。
普段は感情を表に出さない塩野ですが、この日に限っては、多古井と二人で出かけられる喜びを隠しきれません。
球場では、限定品のボールペンをおそろいで購入します。
高価な贈り物ではありません。
それでも塩野にとっては、多古井と初めて特別な時間を過ごしたことを残す、大切な記念品でした。
多古井も野球観戦を楽しみ、塩野の意外な笑顔や準備の細かさに触れます。
嫌味な後輩という印象が薄れ、一緒にいると楽しく、自分のために時間を使ってくれる人として塩野を見るようになります。
ただし、この時点では二人の感情に差があります。
塩野は以前から多古井を思い続けてきました。
一方の多古井は、取調室でキスをされてから、ようやく塩野を恋愛対象として意識し始めたばかりです。
同じボールペンを持っていても、そこに込めている意味の重さまでは、まだそろっていません。
野球観戦のあと、二人は警察官として現場対応に当たります。
原作では事件の罪名や捜査過程を長く描く構成ではなく、現場で抵抗する人物を制止し、身柄を確保する緊迫した場面が中心です。
相手の動きによって多古井に危険が及びそうになった際、塩野が間へ入ります。
塩野は多古井をかばいながら相手の制圧に動き、その過程で負傷しました。
最終的には警察官たちが相手を確保し、現場は収まります。
ここで恋愛面を大きく動かすのは、事件の規模ではありません。
塩野が傷ついた瞬間、多古井が見せる動揺です。
多古井はそれまで、「男性と付き合えるのか」「周囲からどう見られるのか」と、自分の常識や立場を基準に考えていました。
しかし、塩野が傷ついた場面では、理屈より先に「無事でいてほしい」という感情が表れます。
塩野を失うかもしれない恐怖によって、多古井の中の優先順位が可視化されたのです。
僕は、この負傷場面を恋愛感情の証明ではなく、多古井が自分の本心に気づくための最初の証拠だと読みました。
第4話ネタバレ|多古井の言葉で二人が決裂
第4話では、多古井が塩野との関係を人前で肯定できず、拒絶と受け取られる言葉を発したことで、二人の関係が壊れます。
多古井はすでに塩野を意識しています。
一緒に過ごす時間は楽しく、負傷すれば胸が苦しくなり、姿が見えないと気になります。
それでも、男性である塩野と恋人になることや、同僚に関係を知られることへの戸惑いを整理できません。
多古井はこれまで、周囲から求められる役割を大切にしてきました。
地域住民に慕われる気さくな刑事。
同僚の冗談に笑って応じる先輩。
紹介された見合い相手を無下にしない独身男性。
その役割から外れる選択を、自分から口にした経験が少ないのです。
原作の台詞を長く転載せずに意味を整理すると、多古井は塩野との関係について、人前では認めにくいという態度を見せます。
多古井には、塩野の存在を否定するつもりも、恋心を嘲笑する意図もありません。
しかし塩野には、「自分は隠さなければならない相手だ」「二人の時間は多古井にとって恋愛ではなかった」と聞こえます。
事実として多古井が迷っていたことと、塩野が深く傷ついたことは分けて考える必要があります。
多古井の戸惑いには理解できる背景があります。
それでも、答えを曖昧にしたまま塩野の好意を受け取り続ければ、相手だけに不安と責任を背負わせることになります。
塩野は、野球観戦で購入したおそろいのボールペンを、コンビニのゴミ箱へ捨てます。
さらに、苦手な酒を飲みながら関係を終わらせようとします。
この行動は、単なる勢いではありません。
僕には、塩野が「二人で過ごした時間を特別だと信じた自分」を守るため、思い出から離れようとしているように見えました。
捨てたのは安価な文房具です。
しかし、ボールペンが象徴していたのは、初めて二人で出かけた日の高揚と、関係が前へ進むかもしれないという希望でした。
その場面を目にした多古井は、自分の言葉が塩野へ与えた痛みを、初めて目に見える形で理解します。

最終話ネタバレ|異動前の告白と遠距離恋愛
最終話では、塩野の異動を前に、多古井が自分から謝罪と告白をし、二人は正式な恋人になります。
決裂したまま、塩野の異動が決まります。
しかも単なる席替えではありません。
勤務先が変われば、毎日職場で顔を合わせることも、警察寮の隣室から生活の気配を感じることもなくなります。
多古井は、塩野がいなくなる日常を具体的に想像します。
憎まれ口をたたく声が聞こえない職場。
困っているとき、何も言わずに助けてくれる人がいない生活。
壁一枚向こうに塩野がいるという、当たり前だった安心の消失。
失う可能性を突きつけられたことで、多古井の気持ちははっきりします。
塩野は多古井への思いを残しながらも、距離を取ろうとします。
取調室では衝動的にキスをした塩野ですが、最後の決断まで無理に奪おうとはしません。
多古井自身が選ばなければ、付き合う意味がないと理解しているからです。
そこで、多古井が初めて自分から動きます。
見合いを勧められたから応じるのでも、塩野から迫られたから流されるのでもありません。
自分の言葉が塩野を傷つけたことを認め、謝罪し、離れたくないという気持ちを伝えます。
塩野も、不安や嫉妬を抱えながら多古井を思い続けてきたことを隠しません。
二人はようやく、片方が追い、もう片方が戸惑う関係から、互いに気持ちを示す関係へ変わります。
交際は成立しますが、塩野の異動は予定どおり進みます。
そのため二人は、同じ職場と隣室という環境に頼らず、遠距離恋愛を続ける道を選びました。

なぜ最終回は遠距離恋愛になった?
遠距離恋愛になった直接の理由は、塩野の異動が取り消されなかったためです。
二人は恋人になりますが、交際成立によって仕事上の決定まで都合よく変わるわけではありません。
この現実的な終わり方が、本作の余韻を強くしています。
物語前半では、二人が一緒にいる理由の多くが環境によるものでした。
- 同じ山ノ道警察署に勤務している
- 警察寮の部屋が隣同士である
- 現場や署内で毎日のように顔を合わせる
- 共通の同僚や行きつけの店がある
近くにいるから言い争い、近くにいるから変化に気づき、近くにいるから助けに入れました。
しかし、異動後はその強制的な近さがなくなります。
連絡することも、会う予定を立てることも、誤解を解くことも、二人が自分の意志で行わなければなりません。
遠距離恋愛は、関係が弱くなった証拠ではありません。
環境に運ばれていた恋が、二人自身の選択で続ける恋へ変わった証拠です。
続編『キスは捜査のあとで アゲイン』は、2026年5月25日に発売されました。
B6判・210ページで、ISBNは978-4-86669-855-7です。公式紹介では、遠距離恋愛中の二人の前に、塩野を「秀」と呼ぶハイスペックな男性・伊達が現れ、多古井が嫉妬する展開が示されています。Jパブリッシング
本編では、誰にでも優しい多古井を見ながら、塩野が「自分は特別ではないのか」と苦しんでいました。
続編では、多古井が塩野を誰かに奪われるかもしれない不安を知ります。
この立場の反転によって、多古井は、本編で塩野だけが抱えていた感情の重さを自分自身で経験するのです。
『キスは捜査のあとで』の伏線とタイトルの意味
塩野の毒舌は嫌悪ではなく嫉妬
序盤の塩野は、多古井に対して必要以上に厳しい態度を取ります。
しかし、その正体は嫌悪ではありません。
塩野は、多古井が誰にでも向ける優しさを愛している一方、その優しさが自分だけのものではないことに苦しんでいました。
見合い話に強く反応したのも、多古井の結婚を邪魔したいだけではありません。
いつか伝えようと思っていた恋心を告げる時間が、突然なくなると感じたためだと読めます。
結末を知ってから第1話へ戻ると、感じの悪い後輩に見えた塩野の台詞が、不器用な片思いの叫びへ反転します。
警察寮の隣室は近さと期限の象徴
警察寮で隣室に住んでいることは、ラブコメらしい偶然に見えます。
しかし物語の終盤では、その近さが永遠ではなかったと分かります。
見合い相手が寮へ来た際、塩野がすぐ助けに入れたのも隣人だったからです。
一方、異動が決まれば、壁一枚向こうに相手がいる日常は終わります。
多古井は失う段階になって初めて、その近さが自分をどれほど安心させていたかを知りました。
二人を隔てていた寮の壁は、実際には互いの生活をつないでいたのです。
ボールペンは二人の温度差を示す証拠品
野球観戦で購入したおそろいのボールペンは、二人の恋愛感情の差を視覚化する小道具です。
塩野にとっては、長く思い続けた多古井と初めて特別な時間を過ごした証拠でした。
多古井にとっても楽しい思い出ですが、当初は塩野ほど深い意味を理解していません。
そのため、塩野がボールペンを捨てる場面には、失恋以上の痛みがあります。
塩野は、思い出を嫌いになったのではないでしょう。
僕には、持ち続ければ「二人の時間は特別だった」と信じた自分の気持ちまで傷つき続けるため、手放そうとしたように見えます。
ボールペンは恋の記念品であると同時に、多古井へ自分の言葉の重さを突きつける証拠品になりました。
塩野の負傷は多古井の本心を可視化した
多古井は、塩野への気持ちを考える際、周囲の目やこれまでの恋愛観を気にしていました。
ところが塩野が負傷すると、理屈より先に動揺します。
恋愛として認める準備はできていなくても、塩野を失いたくない感情は、すでに多古井の中にあったのです。
刑事は、集めた証拠から事件の真相へ近づきます。
多古井にとって塩野の負傷は、自分の心を見抜くための重要な証拠になりました。
タイトルの「捜査」とは自分の恋心を調べること
『キスは捜査のあとで』というタイトルだけを見ると、事件解決後に刑事たちがキスをする物語を想像するかもしれません。
しかし本編では、塩野が多古井の気持ちを確認するより先にキスをします。
順番は「捜査のあとでキス」ではなく、最初のキスをきっかけに、多古井が自分の心を捜査する形です。
多古井が調べることになるのは、次のような疑問でした。
- 塩野はなぜ自分にだけ厳しいのか
- キスをされても、本当に嫌ではなかったのか
- 塩野が傷つくと、なぜこれほど怖いのか
- おそろいのボールペンを捨てられて、なぜ苦しいのか
- 周囲が望む自分と、自分が望む人生のどちらを選ぶのか
事件の真相を探る刑事が、自分の恋心だけは簡単に見抜けない。
この職業と感情のねじれが、本作のタイトルを印象的にしています。
最初のキスは、塩野が多古井へ突きつけた問いです。
最終回で多古井が出した答えは、塩野を選び、離れても関係を続けることでした。
「キスは捜査のあとで」という題名は、多古井が自分の本心を最後まで調べ終えたとき、初めて完成するのだと僕は考えます。
感想・考察|年の差BLとして何が独特なのか
僕が本作で最も心に残ったのは、「誰にでも優しい人」が、必ずしも恋人にとって優しいとは限らないと描いた点です。
多古井は悪意のない善人です。
困っている住民を放っておけず、見合い相手にも強く出られず、同僚からの冗談も笑って受け止めます。
しかし恋愛では、全員へ均等に配られる優しさだけでは足りません。
相手が求めるのは、自分が特別に選ばれているという確信だからです。
多古井は、塩野から好意を向けられる状態には少しずつ慣れていきます。
ところが、自分も塩野を選び、その関係に責任を持つ段階になると立ち止まります。
これは、年下の男性から迫られた戸惑いだけではありません。
長年築いてきた「住民に愛される独身の人情派刑事」という自己像を変える怖さでもあったと考えられます。
一方、塩野も理想的な恋人として描かれてはいません。
嫉妬を嫌味へ変え、追い詰められるまで素直に告白できず、取調室では多古井の答えを待つより先に行動します。
仕事では冷静な準キャリア警察官なのに、多古井のことになると感情の制御が難しくなる。
その不完全さがあるからこそ、塩野は単なる「年下の完璧な溺愛攻め」では終わりません。
年の差BLでは、年上側が経験豊富で落ち着き、年下側が未熟という配置もよく見られます。
本作はその関係を少しずらしています。
恋愛に関しては、28歳の塩野の方が自分の望みを理解しており、38歳の多古井の方が初めての感情に振り回されます。
ただし、塩野が常に大人というわけでもありません。
多古井を好きすぎるために子どものような嫉妬を見せ、多古井は迷った末に、自分の言葉で謝罪する大人としての責任を引き受けます。
年齢だけで成熟度を決めないことが、本作の年の差恋愛を立体的にしています。
また、警察署という舞台も単なる職業設定ではありません。
多古井と塩野は、住民を守り、証拠を集め、相手の言葉から真実を見抜く仕事をしています。
それなのに、自分たちの感情については見落とし、誤解し、傷つけ合います。
制服を着ている間は冷静な警察官でも、恋の現場では誰もが不器用になる。
その落差が、作品の笑いと切なさを同時に生みました。
僕は、二人の遠距離恋愛が何の問題もなく続くとは考えていません。
多古井は今後も無自覚に人を引きつけ、塩野は不安を素直に言葉へ変えられないことがあるでしょう。
距離が離れれば、表情を見られない分だけ、小さな誤解も育ちやすくなります。
それでも、本編の二人は一度、「言わなくても分かる」という思い込みに失敗しました。
多古井は自分から選ぶことを覚え、塩野は相手が答えを出すまで待つことを覚えます。
性格が完全に変わったわけではありません。
けれど、すれ違ったときに何を言葉にしなければならないのかは知りました。
ステアリングを切る角度が少し違えば、たどり着く場所も変わります。
二人の未来を決めるのは距離の長さではなく、すれ違うたびに、相手のいる方向へ進路を戻せるかどうかなのでしょう。
まとめ
漫画『キスは捜査のあとで』は、山ノ道警察署で働く38歳の人情派刑事・多古井と、28歳の毒舌な準キャリア警察官・塩野を描いた全5話の物語です。
多古井の見合い話をきっかけに、塩野は取調室で突然キスをします。
多古井は、警察寮へ押しかけてきた見合い相手から塩野に助けられ、野球観戦で特別な時間を過ごし、現場で負傷した塩野を心配する中で、自分の感情へ近づいていきました。
しかし、多古井が関係を肯定できずに発した言葉で、塩野は深く傷つきます。
おそろいのボールペンが捨てられ、二人は一度決裂しました。
その後、塩野の異動が決まります。
多古井は塩野のいない日常を想像したことで本心を認め、自分から謝罪し、失いたくないという気持ちを伝えました。
二人は正式な恋人となり、異動後も遠距離恋愛を続けます。
本作が描いたのは、犬猿の仲だった二人が結ばれる意外性だけではありません。
誰にでも優しかった男が、初めて一人を特別に選び、その選択に責任を持つまでの物語です。
取調室での最初のキスは、恋の答えではなく捜査開始の合図でした。
ページを閉じたあと、僕の胸に残るのは、迷いを消してからではなく、迷ったままでも塩野のいる方向へ走った多古井の姿です。
恋とは、正解を見つけてから進むものではないのかもしれません。
失いたくない人を見つけたとき、自分の足でその人を追いかけること。その一歩が、二人にとっての真実だったのでしょう。
よくある質問
漫画『キスは捜査のあとで』は全何話?
単話版は全5話で完結しています。
電子書店では各話を一冊として数え、「全5巻」と表示される場合があります。単行本版は2024年9月25日に発売された全178ページの一冊です。Jパブリッシング
多古井と塩野は最終的に付き合う?
最終話で互いの気持ちを伝え合い、正式な恋人になります。
塩野の異動後は離れた場所で働きますが、別れるのではなく、遠距離恋愛を続ける結末です。
『キスは捜査のあとで』に続編はある?
続編『キスは捜査のあとで アゲイン』があります。
2026年5月25日に単行本が発売され、遠距離恋愛中の多古井と塩野、新たに登場する伊達をめぐる関係が描かれています。Jパブリッシング
執筆:岸本 湊人
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