岡本多緒の現在の代表作は、2026年カンヌ女優賞を受賞した主演映画『急に具合が悪くなる』です。
俳優デビュー作『ウルヴァリン:SAMURAI』、海外ドラマ『ウエストワールド』、日本の『ラストマン-全盲の捜査官-』など、国内外の映画・ドラマで異なる表情を見せてきました。
夜更けに画面へ現れた彼女を見て、僕の胸に残ったのは華やかな経歴だけではありません。
言葉を発する前から、その人物が歩いてきた時間を感じさせる。岡本多緒は、立ち姿と声の両方で物語を背負える俳優なのだと思います。
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岡本多緒の出演作品一覧は?映画・ドラマ・監督作を年表で紹介
岡本多緒は1985年5月22日生まれ、千葉県出身です。
14歳でモデル活動を始め、2006年に渡仏。TAO名義でパリ、ミラノ、ロンドン、ニューヨークのファッション界を経験し、2013年公開の『ウルヴァリン:SAMURAI』でスクリーンデビューしました。
2023年からは活動拠点を日本へ移し、本名の岡本多緒として俳優業と映画制作を続けています。所属事務所の公式プロフィールには、身長176センチであることや、映画、国内外のドラマ、監督作品にまたがる経歴が掲載されています。
初めて出演作を見る人には、次の順番がおすすめです。
- 現在の演技を知るなら『急に具合が悪くなる』
- 俳優としての原点を見るなら『ウルヴァリン:SAMURAI』
- 海外ドラマでの身体表現を見るなら『ウエストワールド』
- 日本の会話劇での存在感を見るなら『ラストマン-全盲の捜査官-』
- 作り手としての感性を知るなら『サン・アンド・ムーン』
以下は、所属事務所の公式プロフィールで確認できる作品を中心に、劇場公開作、ドラマ、監督作を整理した一覧です。
年 作品名 区分 役名・立場/客観情報
2013年 『ウルヴァリン:SAMURAI』 海外映画 矢志田真理子(マリコ)役/スクリーンデビュー作
2014年 『血の轍』 WOWOWドラマ 坂上陶子役
2015年 『クロスロード-Crossroad』 日本映画 すずきじゅんいち監督
2015年 『ハンニバル』シーズン3 海外ドラマ チヨウ役/NBC作品
2015年 『高い城の男』 海外ドラマ ベティ役/Amazon作品
2016年 『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』 海外映画 マーシー・グレイブス役
2017年 『追捕 MANHUNT』 国際映画 田中希子役/ジョン・ウー監督
2018年 『ラプラスの魔女』 日本映画 三池崇史監督
2018年 『PERFECT』 海外映画 SXSW映画祭選出作品
2018~2020年 『ウエストワールド』シーズン2・3 海外ドラマ ハナリョウ役/HBO作品
2019年 『Lost Transmissions』 海外映画 トライベッカ映画祭、上海国際映画祭などで選出
2019年 『She’s Just a Shadow』 海外映画 アダム・シャーマン監督
2023年 『沈黙の艦隊』 日本映画 舟尾亮子役
2023年 『Out of Oder!』 映画 ガイ・ジェーコブソン監督
2023年 『EXHIBIT』 短編映画 企画・監督・脚本を担当
2023年制作 『サン・アンド・ムーン』 短編映画 企画・監督・脚本・出演
2023年 『ラストマン-全盲の捜査官-』第7話 TBSドラマ 葛西亜理紗役
2024年 『沈黙の艦隊 シーズン1~東京湾大海戦~』 配信ドラマ 舟尾亮子役
2024年公開 『MIRRORLIAR FILMS Season6』 オムニバス映画 『サン・アンド・ムーン』収録
2025年 『風のふく島』第6話 テレビ東京ドラマ 坪内美雪役
2025年 『沈黙の艦隊 北極海大海戦』 日本映画 舟尾亮子役
2025年 『幽明の虫』 短編映画 第30回釜山国際映画祭出品作
2026年 『急に具合が悪くなる』 国際共同製作映画 森崎真理役/主演・カンヌ女優賞
所属事務所の映画欄には、従来の記事で抜けやすかった『PERFECT』『Lost Transmissions』『She’s Just a Shadow』『Out of Oder!』『幽明の虫』も掲載されています。
『EXHIBIT』と『サン・アンド・ムーン』は、出演歴だけではなく岡本多緒の監督・脚本家としての歩みを知るうえでも重要な作品です。
なお、作品の製作年、映画祭出品年、日本での公開年が異なる場合があります。
配信状況も時期や地域によって変わるため、視聴前には利用中の動画配信サービスや各作品の公式情報を確認してください。
岡本多緒がカンヌ女優賞を受賞した『急に具合が悪くなる』とは?
岡本多緒は2026年5月23日、フランスで開かれた第79回カンヌ国際映画祭の授賞式で、コンペティション部門の女優賞を受賞しました。
受賞作は濱口竜介監督の『急に具合が悪くなる』です。ダブル主演を務めたベルギー出身のヴィルジニー・エフィラとそろって受賞し、岡本多緒は日本人として初めて同賞に選ばれました。
授賞式で岡本多緒は、受賞について「夢さえも超えています」と喜びを表現しました。
帰国後も実感はまだ十分に湧いていないとしながら、ジャパンプレミアでは、自分一人の演技というよりも、エフィラとの間に生まれた何かが審査員へ伝わったのではないかと語っています。
この言葉は、共同受賞の意味をよく表していると僕は感じます。
二人の主演俳優を単独で切り離して評価するのではなく、視線、声、沈黙を交換しながら作り上げた関係そのものが認められた。映画の中心にある友情と、撮影現場で育った信頼が重なった結果だったのでしょう。
『急に具合が悪くなる』のあらすじと作品情報
物語の舞台はフランス・パリ郊外にある介護施設「自由の庭」です。
施設長のマリー=ルー・フォンテーヌは、人間らしさを尊重するケアを実践しようとしながら、人手不足や周囲との考え方の違いに悩んでいます。
そんな彼女が出会うのが、岡本多緒演じる日本人の舞台演出家・森崎真理です。
真理はステージⅣのがんを患いながらも、演劇への情熱と強い生命力を失っていません。同じ名前の響きを持つマリー=ルーと真理は交流を深め、病の進行とともに、一般的な友情という言葉だけでは表せない関係を築いていきます。
原作は、哲学者の宮野真生子と医療人類学者の磯野真穂が交わした20通の往復書簡をまとめた同名書籍です。
映画は原作の関係性を土台にしながら、介護施設、演劇、異なる言語を話す二人の女性という新たな物語へ組み替えられました。
- 日本公開日:2026年6月19日
- 上映時間:196分
- 監督:濱口竜介
- 共同脚本:濱口竜介、ルディムナ玲亜
- 出演:ヴィルジニー・エフィラ、岡本多緒、長塚京三、黒崎煌代
- 製作国:フランス、日本、ドイツ、ベルギー
作品公式サイトや劇場情報では、4カ国合作、上映時間196分と案内されています。
濱口竜介監督が岡本多緒を起用した理由
濱口竜介監督は岡本多緒の起用について、ハリウッド作品で見た凛とした立ち姿と英語力が印象に残っていたと説明しています。
実際に会話すると、外見から受ける強さだけでなく、声の柔らかさや可愛らしさを感じ、その両方のバランスに引かれたそうです。多言語の習得に慣れているのではないかと考えたことも、フランス語で演じる役への起用を後押ししました。
ここは、岡本多緒の俳優としての魅力を考えるうえで重要です。
これまで彼女は「モデル出身だから立ち姿が美しい」と語られることが多くありました。しかし、濱口監督が強く評価したのは、姿だけではなく声に残る人間性でした。
物語が進み、真理の病状が悪化すると、声は次第に弱くなります。
それでも芯が失われず、人間性が声に宿っていくように感じたと濱口監督は振り返っています。これは抽象的な「存在感」ではなく、役の変化を発声によって表したという具体的な評価です。
岡本多緒自身も、病と向き合う重い役柄である一方、真理が持つ生命力と演劇への情熱をどう表すかに時間をかけたと話しました。
フランス語についてはエフィラの支えを受け、二人のコミュニケーションを重ねるうちに、自分の言葉になっていく感覚があったと振り返っています。

岡本多緒のおすすめ出演映画は?代表作を5本解説
岡本多緒の映画キャリアを追うなら、すべての作品を同じ分量で見るより、転機となった作品を押さえる方が変化を理解しやすくなります。
ここでは、俳優デビュー、海外超大作、国際アクション、日本での継続出演、カンヌ受賞という五つの段階から代表作を選びました。
『ウルヴァリン:SAMURAI』は俳優としての原点
2013年公開の『ウルヴァリン:SAMURAI』は、岡本多緒のスクリーンデビュー作です。
ヒュー・ジャックマン演じるウルヴァリンが日本を訪れ、矢志田家をめぐる陰謀へ巻き込まれていくなか、岡本多緒は矢志田真理子、通称マリコを演じました。
演技経験がない状態から主要キャラクターに抜てきされ、物語の感情面を担うヒロインを務めています。日本でのプレミアでは、演技未経験の自分が選ばれ、生まれ育った日本で撮影できたことへの喜びを語っていました。
真理子は巨大な財産の後継者であるため、本人の意思とは関係なく、家族や権力者の思惑に巻き込まれます。
その一方で、守られるだけの女性ではありません。危険のなかでも自分の意志を保ち、ウルヴァリンとの距離を少しずつ変えていきます。
僕が改めて見るべきだと思うのは、走る場面や恋愛場面だけではなく、人々に囲まれた真理子が沈黙している瞬間です。
後の作品ほど演技技術が完成しているわけではありません。それでも、周囲に見られている人物の緊張や、簡単には本心を明かさない警戒心が、姿勢の硬さから伝わります。
『急に具合が悪くなる』で濱口監督が評価した「凛とした立ち姿」は、すでにこのデビュー作に現れていました。
『バットマン vs スーパーマン』では超大作の空気を支える
2016年公開の『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』では、レックス・ルーサーの秘書マーシー・グレイブスを演じました。
バットマンとスーパーマンという二大ヒーローが激突する作品で、岡本多緒はジェシー・アイゼンバーグ演じるレックスの近くに立ち、命令を冷静に処理する人物として登場します。
出演時間は『ウルヴァリン:SAMURAI』ほど長くありません。
しかし、強い光と破壊音に満ちた作品のなかで、表情を大きく動かさないマーシーの静けさは、レックスの周辺にある不穏さを濃くしています。
以前の記事では、こうした演技を何度も「静かな存在感」と表現していました。
より具体的に言えば、マーシーは観客へ自分の感情を説明しません。レックスの奇妙な言動を間近で見ても、驚きや恐れを分かりやすく示さないため、彼女自身も危険な世界の一部に見えるのです。
短い登場時間で人物の所属する世界を理解させる。その能力が確認できる作品です。
『追捕 MANHUNT』では動きのリズムが生きる
2017年の『追捕 MANHUNT』は、ジョン・ウー監督が日本を舞台に撮影した国際アクション映画です。
岡本多緒は田中希子役で出演し、福山雅治、チャン・ハンユーらと共演しました。所属事務所の公式プロフィールでは、ベネチア国際映画祭選出作品として紹介されています。
ジョン・ウー作品では、銃撃や追跡だけでなく、人物が振り返るタイミングや画面を横切る速度も映像のリズムになります。
この作品で岡本多緒のモデル経験が生きていると考えるなら、単純に歩き方が美しいからではありません。
人物がどの位置で止まり、誰へ体を向け、次の動作へどう移るのか。その一連の流れが画面の構図を乱さないことに、長くカメラと向き合ってきた経験が表れているように僕には見えます。
『沈黙の艦隊』では日本の政治劇へ溶け込む
岡本多緒は2023年公開の映画『沈黙の艦隊』、2024年配信の『沈黙の艦隊 シーズン1~東京湾大海戦~』、2025年公開の『沈黙の艦隊 北極海大海戦』で舟尾亮子を演じました。
舟尾は江口洋介演じる内閣官房長官・海原渉の秘書で、政府内の動きや政治判断を描く場面に登場します。
このシリーズでは、潜水艦内の戦闘と地上の政治劇が並行します。
舟尾は大声で主張する中心人物ではありませんが、緊迫した会議や報告の場に立つことで、政府が置かれた状況の重さを視聴者へ伝えています。
『バットマン vs スーパーマン』のマーシーも権力者のそばに立つ秘書でしたが、二つの役は同じではありません。
マーシーには何を考えているか読めない冷たさがあり、舟尾には組織の一員として状況を正確に受け止める現実感があります。似た立場の役を比較すると、岡本多緒が作品の温度に応じて表情や緊張の度合いを変えていることが分かります。
『サン・アンド・ムーン』は作り手としての転機
短編映画『サン・アンド・ムーン』では、岡本多緒が企画、監督、脚本、出演を担当しました。
父親の葬儀をきっかけに出会った異母兄弟が、夜のレストランで父との記憶を語り合う会話劇です。2023年の東京国際映画祭でAmazon Prime Videoテイクワン賞のファイナリストに選ばれ、メリーランド国際映画祭では最優秀外国映画賞を受賞しました。
さらに『EXHIBIT』では、企画・監督・脚本に加え、撮影や編集も手がけました。
一人で脚本、監督、撮影、編集を担う約10分の「てのひら映画」として制作され、複数の国内外映画祭へ出品されています。
監督経験が『急に具合が悪くなる』の演技へ直接つながったと断定することはできません。
ただし、自分で脚本を書き、俳優を配置し、映像を編集する経験を持ったことで、一本の映画が俳優の演技だけでは成立しないことを、以前より具体的に理解した可能性はあります。
岡本多緒は『急に具合が悪くなる』について、自分が演じていることを忘れるほど、真理という人物を客観的に追えたと語りました。
その言葉からは、自分だけを目立たせるのではなく、作品全体のなかで役を見る作り手の視点が感じられます。

岡本多緒の海外ドラマ・日本ドラマ出演作は?
岡本多緒の演技を深く知るには、映画だけでなく連続ドラマも外せません。
映画では一つの物語へ集中するのに対し、ドラマでは複数話を通して役が変化したり、短いゲスト出演で強い印象を残したりする必要があります。
『ハンニバル』シーズン3のチヨウ役
2015年の『ハンニバル』シーズン3で、岡本多緒はチヨウを演じました。
チヨウはウィル・グレアムやハンニバル・レクターの過去とつながり、単純な味方とも敵とも言い切れない位置にいる人物です。所属事務所の公式プロフィールにもNBC作品のシーズン3出演として掲載されています。
この作品では、美しい構図のなかに暴力性や心理的な恐怖が隠されています。
チヨウも自分の考えをすべて説明しません。相手を観察する目や、言葉を発するまでの間によって、忠誠心、疑い、怒りが同時に存在しているように見せます。
以前はこれを「沈黙が武器」と表現しましたが、より正確には、沈黙の長さによって観客の判断を遅らせる演技です。
視聴者が善悪を決めようとするたびに、チヨウは簡単な答えから半歩だけ離れていきます。
『高い城の男』では歴史改変世界の日常を演じる
『高い城の男』は、第二次世界大戦後の世界が現実とは異なる形になった社会を描くドラマです。
岡本多緒はシーズン1でベティ役を演じました。所属事務所の公式出演歴では2015年のAmazon作品として掲載されています。
作品の魅力は、歴史上の大きな変化だけでなく、その社会で日常生活を送る人々の価値観まで描いている点です。
岡本多緒も「日本的な世界観を説明するための人物」としてではなく、その世界に暮らす一人として存在しています。
海外で生活し、複数の文化と言語の間を歩いてきた経験が演技へ影響した可能性はあります。
ただし、それを外見だけから断定するのではなく、周囲の俳優と同じ速度で会話し、作品の世界へ自然になじんでいることを評価すべきでしょう。
『ウエストワールド』のハナリョウ役
『ウエストワールド』では、シーズン2とシーズン3にハナリョウ役で出演しました。
シーズン2では江戸時代風のテーマパーク「ショーグンワールド」が描かれ、ハナリョウは武蔵のそばで戦う人物として登場します。シーズン3にも再び姿を見せました。
ハナリョウを見る際に注目したいのは、刀を構えた瞬間だけではありません。
武蔵の隣に立つとき、彼女は相手へ体を完全には向けず、いつでも周囲へ反応できる角度を残しています。戦闘が始まる前から、警戒を解いていない人物だと分かる立ち方です。
一方、『ラストマン』の事情聴取場面では、椅子に座った状態で視線と声を抑え、相手に自分を読ませない演技をしています。
『ウエストワールド』では全身の位置で警戒心を表し、『ラストマン』では限られた動きで秘密を抱えた女性を表す。この比較から、モデル経験を単なる美しいポーズではなく、役に応じた距離の設計へ使っていることが見えてきます。
『ラストマン』第7話の葛西亜理紗役
2023年6月4日放送の『ラストマン-全盲の捜査官-』第7話で、岡本多緒は葛西亜理紗を演じました。
亜理紗は、白骨遺体として発見された資産家の40歳差の妻です。以前結婚していた年上の男性も失踪しており、アメリカ大使館からスパイの可能性まで疑われる人物として登場しました。
福山雅治演じる皆実広見は、事情を聞くうちに亜理紗へ好意を持ち、「彼女は犯人ではない」と判断します。
視聴者にとっては、疑うべき情報と信じたくなる魅力が同時に提示される構成です。
事情聴取の場面で、亜理紗は自分が怪しく見えることを慌てて否定しません。
言い訳を重ねれば重ねるほど疑われる状況で、声の調子を大きく変えず、相手の質問を受け止める。その落ち着きが無実の可能性と、さらに深い秘密の両方を想像させます。
1話限りのゲスト出演ですが、日本の地上波ドラマで岡本多緒の演技を見たい人には、入り口として選びやすい作品です。
『風のふく島』第6話の坪内美雪役
2025年2月14日深夜に放送されたテレビ東京『風のふく島』第6話では、坪内美雪を演じました。
第6話の主人公は、北乃きい演じる朝比奈三咲です。会社員生活で思い描いていた仕事ができずに悩んだ三咲が、キャンドル作りと出会い、ものづくりへの情熱を取り戻していく物語でした。
ハリウッド映画や近未来SFで岡本多緒を知った人には、地域の暮らしを描く作品への出演が新鮮に映るでしょう。
ここでは、特別な人物であることを強く押し出すのではなく、主人公の人生に影響を与える日常の人として画面に溶け込んでいます。
光を浴びて目立つことと、作品の生活感を壊さずにそこへいることは、別の技術です。
岡本多緒の日本での活動が増えたことで、海外作品では見えにくかった、力を抜いた会話や身近な空気も楽しめるようになりました。

岡本多緒の出演作品から見える変化と今後の見通し
岡本多緒のキャリアは、単純な「モデルから俳優への転身」では整理しきれません。
本人は、モデルの仕事でも服やヘアメイクを通じて自分ではない人物に出会い、雑誌撮影では人物の背景を想像していたと振り返っています。
映画出演によって、写真やランウェイだけでなく、身体と言葉を使って表現できる範囲が広がったと語りました。
つまり、モデルと俳優は完全に切り離された二つの道ではありません。
岡本多緒にとっては、最初から「自分ではない誰かを想像する」という一本の道があり、その表現手段が静止画から映像、さらに脚本や監督へ広がっていったのでしょう。
出演作を時系列で見ると、キャリアは三つの時期に分けられます。
第一期は、『ウルヴァリン:SAMURAI』や『バットマン vs スーパーマン』など、国際的なモデルTAOの存在感を生かして海外大作へ進出した時期です。
第二期は、『ハンニバル』『ウエストワールド』『PERFECT』『Lost Transmissions』などで、大作だけでなくテレビシリーズやインディペンデント映画へ活動を広げた時期です。
第三期は、2023年に日本へ拠点を移し、『沈黙の艦隊』『ラストマン』『風のふく島』へ出演しながら、自ら映画を作り、『急に具合が悪くなる』で国際共同製作の主演を担った時期です。
この変化のなかで、最も重要なのは「静かな俳優」という評価の中身が変わったことだと僕は考えます。
初期作品では、整った姿勢や感情を読ませない外見が、役へ謎や威厳を与えていました。
『急に具合が悪くなる』では、病によって姿勢や声の力を失っていく人物を演じながら、それでも消えない生命力を表しました。
強く立つことで人物を見せていた俳優が、立てなくなっていく人物の強さを表現した。
そこに、デビューから13年間の本当の変化があります。
カンヌでの共同受賞についても、岡本多緒だけが目立つ場面を積み上げた結果ではありません。
ヴィルジニー・エフィラとの間に信頼関係が生まれ、互いに感情を与え合う演技が観客や審査員へ届いたと濱口監督は説明しています。
俳優の評価は、ときに泣いた回数や感情を爆発させた場面によって語られがちです。
しかし『急に具合が悪くなる』が示したのは、相手の言葉を聞き、その言葉によって自分の声や表情が変わることも、演技の大きな力になるという事実でした。
今後は、国際共同製作や海外監督作品で主演級の役を求められる機会が増えると考えられます。
一方で、『ラストマン』や『風のふく島』のような日本のテレビドラマへ出演を続ければ、ハリウッド俳優という遠い印象だけではなく、日常の人物を演じられる俳優としても認知が広がるでしょう。
個人的には、岡本多緒が企画・監督する長編映画を見てみたいと思います。
海外で暮らし、複数の言語で演じ、日本へ戻って地域や政治を描く作品にも参加してきた彼女なら、どちらか一つの文化を外側から説明するのではなく、文化と文化の間に立つ人の揺れを描けるのではないでしょうか。
岡本多緒の出演映画を一本だけ選ぶなら、現在の代表作である『急に具合が悪くなる』がおすすめです。
俳優としての出発点から見たい人は『ウルヴァリン:SAMURAI』、海外ドラマなら『ウエストワールド』、日本のテレビドラマなら『ラストマン-全盲の捜査官-』第7話から見ると、それぞれの魅力をつかみやすいでしょう。
14歳でモデルの世界へ入り、海を渡り、俳優となり、やがて自分で物語を作り始めた岡本多緒。
華やかなレッドカーペットの先にあったのは、光を独占することではなく、共演者の声を受け止め、二人の間に生まれた感情を映画へ残すことでした。
スクリーンの灯りが消えたあとも、声の芯だけは静かに残る。
その余韻こそが、次の岡本多緒を見届けたくなる理由なのだと、僕は感じています。
よくある質問
岡本多緒の現在の代表作は何ですか?
2026年6月19日に日本公開された濱口竜介監督の『急に具合が悪くなる』です。
岡本多緒は森崎真理役でヴィルジニー・エフィラとダブル主演し、二人そろって第79回カンヌ国際映画祭の女優賞を受賞しました。
岡本多緒が出演した海外ドラマは?
主な海外ドラマは、『ハンニバル』シーズン3、『高い城の男』、『ウエストワールド』シーズン2・3です。
『ハンニバル』ではチヨウ、『高い城の男』ではベティ、『ウエストワールド』ではハナリョウを演じています。
TAOと岡本多緒は同一人物ですか?
同一人物です。
岡本多緒は海外のモデル・俳優活動でTAO、Tao Okamotoの名義を使用してきました。2023年に日本へ活動拠点を移してからは、本名の岡本多緒としての活動を本格化させています。
――岸本 湊人
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